誰が一番先に道に迷うか、駅を出た瞬間に賭けた。地図を握りしめていたはずのリーダーが、見事な方向感覚のなさを披露して一番に道を間違える。四月の風が首筋を撫で、ひんやりとした刺激が心地いい。その冷たさが心地よい目覚まし時計のように機能して、私たちは笑い転げながら熱海シーサイド スパ&リゾートへと足を向けた。
ビュッフェの皿の上で、地元の鮮魚が宝石のように艶やかに光っている。醤油の香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、胃袋が激しく主張し始めた。誰かが「盛りすぎだろ」と笑いながら突っ込んだけれど、山盛りの皿を崩しながら食べる時間は、心地よい混沌に満ちていた。口いっぱいに広がる濃厚な海の味が、日常の記憶をゆっくりと塗り替えていく。
「ここ、意外といい感じじゃない?」キャビンルームの入り口で、誰かが小さく呟いた。セミダブルのベッドが部屋のほとんどを占領している。スーツケースを広げた途端、通路が消滅した。けれど、その密閉された空間は、まるで秘密の潜水艦に一緒に乗り込んだみたいで、不思議と安心感が心地よかった。
サンビーチまで歩いてわずか一分。靴の中に忍び込んだ砂の粒が、歩くたびに足裏をチクチクと刺激する。潮風で髪が顔に張り付き、それを剥がし合いながら「誰が一番観光客っぽい格好をしているか」という不毛な議論が始まった。結論は、全員が完璧な観光客だったということ。
大浴場の湯船に身を沈めると、表面張力で肌が水面に吸い寄せられる感覚がある。熱いお湯が凝り固まった肩の力を、ゆっくりと溶かし出していく。隣で誰かが小さく、深い溜息をつく音が聞こえた。言葉を交わさなくても、いまこの瞬間を共有している心地よさが、湯気に溶けて伝わってくる。
深夜、部屋の調光スイッチを一番暗くして、充電ポートの小さな光に身を任せる。三十二インチのテレビから流れる意味のない番組の音と、隣のキャビンから漏れてくる微かな笑い声。この狭い空間に、私たちの今の距離感がそのまま凝縮されているようで、なんだか愛おしくなった。
商店街で偶然見つけた、名前も知らない甘いお菓子。口の中でゆっくりと溶けていく砂糖の粒が、旅の心地よい疲れを塗りつぶしていく。予定していた起雲閣へは結局行かなかったけれど、そんな「計画の失敗」こそが、この旅における最高の正解だったのかもしれない。
チェックアウトの朝、窓の外に広がる海が、空と同じ深い青に溶け込んでいた。境界線のない景色を眺めていると、自分という個体の輪郭が少しだけ曖昧になり、心地よい解放感に包まれる。またいつか、この熱海シーサイド スパ&リゾートの不自由で贅沢な狭さに戻ってきたい。
波打ち際で、誰かが脱ぎ捨てたサンダルの跡がゆっくりと消えていく。
- サンビーチまで一分だから、あえて時間を決めずに海まで散歩してほしい。
- キャビンルームの心地よい密閉感を、ぜひ親友と一緒に体験してみて。