← 戻る THE LUIGANS Spa&Resort|ザ・ルイガンズ.スパ & リゾート

青い部屋と、こぼれたオレンジジュース

ロビーに足を踏み入れた瞬間、まず肌を撫でたのは、博多湾から運ばれてきた少し湿った、けれど心地よい冷たさを孕んだ潮風だった。3月の福岡は、まだ冬の気配がしがみついているけれど、どこかで春が静かに準備を始めている。そんな季節の変わり目特有の、わずかな気圧の変化が心地よい。足元では、上の子が履いているスニーカーが、鏡のように磨き上げられた床に小さく高い音を立てていた。その音が、静まり返ったラグジュアリーな空間に、静かな波紋のように広がっていく。家族で旅に出るということは、ある種の「心地よい混乱」を抱えて移動することだと思う。荷物は予想以上に多く、子供たちの機嫌は変わりやすい空の色のように不安定だ。けれど、ザ・ルイガンズ.スパ & リゾートの広々とした空間に身を置くと、その混乱さえも、穏やかな風景の一部として溶け込んでいくような気がした。

喧騒を脱ぎ捨て、家族の「呼吸」を取り戻せるのはなぜか

なぜ、家族でここに来るべきなのか。その答えは、おそらくここにある「許容される余白」の圧倒的な広さにあるのだろう。都心から車でわずか20分という距離にありながら、目の前には水平線がどこまでも続く、遮るもののない世界が広がっている。子供たちが我慢できずに走り出したとき、視界を遮る壁が何ひとつないことに気づき、胸の奥がすっと軽くなった。私たちはつい、公共の場では「静かにしなさい」と、無意識に子供たちの世界を狭めてしまう。けれど、ここではその言葉が意味を失う。国内最大級という芝生のガーデンに足を踏み出した瞬間、下の子が「あー!」と歓声を上げて駆け出していった。その純粋な叫びが、吸い込まれるように広い空へと消えていく。誰にも迷惑をかけない、ただ純粋な解放感。ラグジュアリーという言葉の真意は、豪華な設備にあるのではなく、こうして「ありのままの状態でいられる空間」を所有できることなのだと感じた。3月の淡い光が、青々とした芝生の上に柔らかな影を落とし、ただそこに佇んでいるだけで、日常で張り詰めていた肩の力が、潮が引くようにふっと抜けていくのがわかった。

子供の瞳を捉えて離さなかった、鮮やかな色彩の魔法とは

子供たちが一番気に入ったのは、意外にもオーシャンビュールームに満ちていた「色」だった。ルイス・バラガンの色彩感覚へのオマージュが込められているというその空間は、ドアを開けた瞬間、深く、けれど温かみのある青が視界をジャックする。上の子はしばらくの間、その壁の色を、まるで未知の惑星を見つけたかのようにじっと見つめていた。そして不意に、「ここ、海の中みたい!」と声を上げると、ふかふかのカーペットの上を、一匹の魚のように自由に泳ぎ始めた。大人はインテリアのデザイン性や調和を評価するけれど、子供にとっては、そこはただの「冒険できる場所」なのだろう。ふと見ると、テーブルの上でオレンジジュースが少しだけこぼれていた。普段なら「あーっ!」と慌ててしまう場面だけれど、その鮮やかなオレンジ色が、部屋の深い青い壁と不思議なほど調和していて、なんだか一枚のモダンアートのように見えた。そんな小さな失敗さえも、この色の世界にいると、心地よいアクセントに変わる。ベッドのリネンに触れると、指先に伝わるしっとりとした上質な質感と、かすかに漂う清潔な洗剤の香りが、旅の緊張をゆっくりと解きほぐしてくれた。

旅路の果てに、心に深く刻まれる景色とは

チェックアウトの朝、記憶に深く刻まれたのは、朝食で味わった福岡の旬の果物の濃厚な甘さと、窓から差し込む透明な光だった。3月の空気はまだ肌を刺すように冷たいけれど、太陽の温度が確実に上がっている。海の中道海浜公園を散歩しながら、桜の開花予想についてとりとめもなく話したこと。子供たちが、道端に咲く名もなき小さな花を見つけては、しゃがみ込んで真剣に観察していたこと。そういう、ガイドブックには決して載っていない、空白のような時間が、実は一番の贅沢だったのかもしれない。完璧なスケジュールをこなすことよりも、予定外の出来事に家族で笑い合い、疲れたらそのままソファに倒れ込む。そんな不完全な時間の積み重ねが、家族というチームの絆を、静かに、けれど確実に太くしていく。ホテルを離れるとき、バックミラーに映る青い建物が、少しずつ小さくなっていく。けれど、心の中には、あの鮮やかな色彩と、子供たちの笑い声という心地よい残響が、ずっと鳴り響いていた。

波打ち際で、小さな手が私の指をぎゅっと握りしめた。

  • マリンワールドでの魚たちとの出会いは、子供たちの好奇心を刺激する最高のスパイスになるはず。
  • 海の中道海浜公園の広い芝生で、あえて目的地を決めずに、風の向くままに歩いてみるのがおすすめ。