天神南駅を降りた瞬間、頬を刺すような鋭い冬風が吹き抜けた。誰が一番早くホテルを見つけられるかという、くだらない賭けを始めたけれど、結局は全員が同じ方向で迷い込んでいた。地図を読み解くよりも先に、寒さで指先が凍りつき、感覚がなくなっていく心地よささえ感じていた。
中洲の屋台街に足を踏み入れると、炭火で焼いたタレの香ばしい匂いが、冷えた鼻腔を心地よく刺激した。眼鏡が真っ白に曇り、隣にいる友人の顔がぼんやりとした光の塊に見える。熱々のおでんを口に運んだとき、喉の奥から胃のあたりまでじわりと温もりが広がり、張り詰めていた心がふっと緩んだ。
コートホテル福岡天神のジャパニーズモダンルームに足を踏み入れた瞬間、「え、意外と広いじゃん」と誰かが声を上げた。そこから始まったのが、互いのスーツケースの中身に対する容赦ないツッコミだ。「この量でどうやって閉めたの?」と笑い合う中、悲鳴を上げるジッパーの金属音が部屋に響き、私たちは同時に吹き出した。
深夜二時、一階のコンビニへ向かうという極秘の「作戦」が決行された。結露したペットボトルの冷たさが指先に張り付き、心地よい刺激になる。コンビニの白すぎる照明の下で、どのお菓子が今夜の正解かという、人生で最も真剣な議論を交わす。そんなどうでもいい時間に全力になれるのが、私たちのチームの正解なのだ。
ふと窓の外を眺めると、福岡の空が深い鉛色に染まっていた。部屋に満ちる静寂の中、エアコンの低い唸りだけが一定のリズムを刻んでいる。一人でいることの心地よい孤独と、壁一枚隔てて誰かがいる安心感。その絶妙なバランスに身を任せていると、この空白の時間こそが旅の最大の贅沢に思えてきた。
裸足で踏みしめたカーペットの、少しだけ硬いけれど安心感のある感触。ベッドに体を沈めると、心地よい反発力が優しく背中を押し返してくる。ロビーで流れていたオリジナルBGMの余韻がまだ耳に残っていて、この空間のちょうどいい距離感に、なんとなく納得していた。
リファのシャワーヘッドから降り注ぐ、きめ細やかな水圧が心地いい。熱い湯気が視界を白く塗りつぶし、肌に触れる温度が、一日中歩き回って強張った足の筋肉をゆっくりとほどいていく。ドライヤーの風が髪を乾かす乾いた音だけが響く、外界から完全に隔離された至福の時間だった。
冬の土の中で、殻を破ろうとする種のような、かすかな緊張感が旅の間ずっとあった気がする。お互いに遠慮しながらも、心地よい距離でぶつかり合う。それは、春に咲く花を待つ前の、必要なプロセスだったのかもしれない。ありのままの自分でいい。私たちはただ、そこにいればよかった。
脱ぎ捨てられた靴が、玄関先で反対方向を向いて転がっている。
- 1階のコンビニは本当に便利。夜中のアイス選びに時間を使いすぎて、睡眠時間を削るのが正解。
- 中洲の屋台まで歩く道すがら、あえて路地裏に迷い込んでみて。予想外の景色に出会えるから。