← 戻る リッチモンドホテル博多駅前

白いシーツに落ちた、四月の光

白いシーツに落ちた、四月の光

都会の喧騒を脱ぎ捨てた、白の静寂

キャリーケースの車輪が、アスファルトを叩く乾いた音がリズムを刻む。博多駅の出口からリッチモンドホテル博多駅前まで、歩いてわずか四分。その短い道のりで、街の温度が少しずつ変わるのがわかった。四月の風はまだ冷たく、頬を撫でる感触がどこか他人事のように心地いい。自動ドアを抜けた瞬間、都会の喧騒がふっと遠のき、代わりに清潔感のある柔らかな香りが鼻腔をくすぐった。フロントで受け取ったカードキーのプラスチックの冷たさが、指先に心地よく残っている。デラックスダブルルームのドアを開け、カードをかざすと、小さく電子音が鳴った。その音が、私たちの旅の本当の始まりを告げた気がする。目の前に広がっていたのは、眩しいほどの白。デュベスタイルのベッドが、部屋の中央に大きな雲のように鎮座していた。その純白に、自分たちが抱えてきた小さな迷いや、言葉にできなかった緊張が、すべて吸い込まれて消えてしまうような心地がした。

隣を歩く君の肩が、時々、私の肩に触れる。そのわずかな接触に、心拍数が跳ね上がるのがわかった。駅前の人混みの中で、私たちはどちらがリードしているのかもわからないまま、ただなんとなく同じ方向へ歩いていた。ホテルに入り、エレベーターを待つ間の、あの気まずい数秒間。鏡に映る自分たちが、なんだかとても遠い場所にいるように見えて、私は小さく息を吐いた。けれど、部屋に入った瞬間、その距離感がふわりと変わった。明るい照明に照らされた広いデスクと、そこに整然と並ぶ備品。機能的でありながら、決して冷たくない空間。私は、君がベッドの端に腰掛けたとき、シーツがわずかに沈み込む様子をじっと見ていた。その小さな変化が、この無機質な空間に「二人」という体温が加わったことを教えてくれた。私たちはまだ、お互いの正しい呼吸の速度を知らないけれど、この白い静寂の中なら、ゆっくりと合わせられる気がした。

記憶の錨となった、温もりと白

翌朝、ホテル内のレストランで、私たちは同じタイミングで目の前の湯気に視線を落とした。炊き立てのご飯から立ち上る、甘くて温かい香り。多彩な朝食メニューを前にして、私たちは言葉を使わず、ただ視線を交わし合った。君が選んだ料理と、私が選んだ料理。それがテーブルの上で並んだとき、パズルのピースがはまったような、不思議な充足感に包まれた。

そして部屋に戻ったとき、私たちは同時に、あの真っ白なデュベスタイルのシーツに触れた。パリッとした清潔なコットンの質感。肌に触れた瞬間、ひんやりとしていて、けれどすぐに体温で温まっていく。その感覚は、私たちがこの旅で、少しずつお互いの温度に慣れていく過程に似ていた。この白さは、空虚ではなく、これから何を書き込んでもいいという優しい空白のようなものだった。私たちはその空白の中で、四月の光が部屋の隅まで満ちていくのをただ静かに眺めていた。誰に教えられるでもなく、ただそこに居ていいのだという、静かな肯定感。それが、この部屋が私たちにくれた一番の贈り物だった。

カーテンの隙間から差し込んだ光が、君のまつ毛の先に小さく光った。

  • 博多駅からの散歩を楽しみながら、徒歩20分ほどの伝統工芸館まで、春の風を感じて歩いてみてほしい。
  • 朝食の多彩なメニューから、あえて相手が選びそうなものを予想して選ぶ、小さなゲームを楽しんでほしい。