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帯の結び目が、少しだけきつすぎた午後

帯の結び目が、少しだけきつすぎた午後

帯との格闘、それぞれの記憶

(Aの記憶)
ぶっちゃけ、誰が一番早く浴衣を着られるか賭けたのが運の尽きだった。結果的に三人とも帯の結び方がわからず、部屋の中は一気にカオス状態に。誰かが「こうじゃないか」と強引に私の帯を締め上げたけれど、あれはもう拘束に近い。肺が圧迫され、呼吸が浅くなる感覚。けれど、鏡に映った私たちの姿があまりに不格好で、まるで迷走したコスプレ集団みたいで笑いが止まらなかった。ゴワゴワとした生地の感触と、焦りで火照った肌。でも、その歪な結び目こそが正解な気がして、結局そのまま街へ繰り出した。「誰が一番先に裾を踏んで転ぶか」、次なる賭けが始まった瞬間だった。

(Bの記憶)
冷房が心地よく効いた部屋に、糊のきいた綿の匂いが白く充満していた。白い壁に反射する、淡いオレンジ色の照明。友達が帯と格闘しているガサガサという布の摩擦音だけが、静かなリズムを刻んでいた。時折混じる、諦め混じりの笑い声。私はベッドの端に腰掛け、その滑稽で愛おしい光景を眺めていた。彼らがもがけばもがくほど、この部屋の静寂が際立っていく。外は七月の福岡特有の、湿った熱気が渦巻いているはずなのに、ここだけは真空パックされたみたいに心地いい。不器用な手つきで結ばれた帯の、少し歪んだ形。それが、この旅の不完全で自由な輪郭に似ているなと思った。

朝のカレー、異なる味覚の記録

(Aの記憶)
目覚ましを三回スヌーズして、ようやく辿り着いた朝食会場。目の前に現れたのは、湯気を立てる日替わりのカレーだった。一口食べた瞬間、鋭いスパイスの刺激が、泥のように眠っていた脳細胞を強引に叩き起こす。熱い。けれど、その熱さが心地よく、胃の奥までじわりと広がっていく。ご飯に絡みつく濃厚なルーの質感と、鼻に抜けるクミンの香り。隣で友達が「昨日の屋台の味がまだ残ってる」と呟いていたけれど、今の私にはこの刺激だけが唯一の真実だった。皿の底が見えるまで完食し、ようやく「ああ、私は今、福岡にいるんだ」と実感した。胃袋から満たされる快感こそが、早起きの正当な報酬だった。

(Bの記憶)
カトラリーが皿に当たる、小さく高い音が心地よく響いていた。まだ半分眠っているような顔をした友達が、ゆっくりとカレーを口に運んでいる。立ち上る白い湯気の向こう側で、彼らの強張った表情が少しずつ緩んでいくのが見えた。窓から差し込む柔らかな朝の光が、テーブルの上の水グラスを透過して、小さな虹をテーブルに描いていた。味というよりは、その場の温度感。誰かが「昨日の花火、すごかったね」と、低い声で話し始める。特別な会話があるわけではない。ただ、同じ空間で同じ匂いの料理を囲んでいるという、緩い連帯感。その静かな充足感が、何よりも贅沢な味だった気がする。

唯一、全員が同意した聖域

天神の街を歩いていると、空気そのものが重い。湿り気を帯びた風が肌にまとわりつき、祭りの喧騒が耳の奥まで入り込んでくる。けれど、リッチモンドホテル天神西通のロビーに足を踏み入れた瞬間、世界が鮮やかに切り替わる。ひんやりとした空気の層が、汗ばんだ肌を優しく包み込む感覚。あの瞬間、私たちは誰からともなく「ここが正解だ」と同意した。外の喧騒を遮断し、清潔な白に囲まれて、SUPERIOR TWIN ROOMの心地よいベッドに身を投げ出す。裸足で踏んだタイルの冷たさが、足裏から体温を奪い、心地よい疲労感だけを残していく。完璧な計画なんてなくていい。ただ、戻ってくる場所が心地よければ、それで十分なのだ。

濡れたサンダルを脱ぎ捨てて、真っ白なシーツに深く沈み込んだとき、遠くで祭りの太鼓の音がかすかに聞こえた。

  • 浴衣をレンタルするなら、ホテルでゆっくり着付けをする時間を確保して。帯との格闘は予想以上に体力を消耗するから。
  • 朝食のカレーは、ぜひ一番乗りで。静かな空間でスパイスの香りに包まれる時間は、旅の最高の贅沢になるはず。