← 戻る JRタワーホテル日航札幌

35階の窓ガラスに触れた指先

35階の窓ガラスに触れた指先

靴底が氷を噛む、あの硬い音。札幌駅からホテルまでのわずか3分を、「誰が一番先に滑るか」で賭けていた。結果的に、一番余裕をぶっこいていたやつが派手に転んだ瞬間、鼻をつく冷気よりも笑いの方が勝った。JRタワーホテル日航札幌の入り口に辿り着いたとき、私たちの肩は寒さと笑いで小さく震えていた。



ロビーラウンジで運ばれてきたパブロヴァの、雪のように真っ白なクリーム。スプーンを入れたときのわずかな抵抗感と、その後に訪れる儚い口どけ。窓の外は白銀の静寂に包まれているけれど、温かい紅茶の香りが鼻腔をくすぐり、今自分が安全な場所にいることを教えてくれる。あそこで私たちは、次の目的地を決めないまま、ただぼーっと街を眺めていた。


コーナーツインの部屋に入った瞬間、窓側の特等席を巡る争奪戦が始まった。「景色が見えない!」と喚く一番背の低いやつを無視して、私たちは高層階から見える街の灯りの小ささを笑い合った。視線の高さが変わるだけで、世界が精巧なミニチュア模型に見え始める。そういう錯覚が、心地よかったのかもしれない。


部屋の隅に積み上がった、濡れたコートと厚手の靴下の山。湿ったウールの匂いが、暖房の効いた空間にじわじわと広がっていく。洗練された機能的な空間のはずなのに、私たちが入り込んだ途端、そこは整理整頓とは無縁の、心地よい混沌としたキャンプ地になった。誰かが脱ぎ捨てた手袋が、まるで生き物みたいに床に転がっていた。


温泉に浸かったとき、肌にまとわりつくお湯の重みが、強張っていた心をゆっくりと解いていく。白い湯気で視界が濁り、隣にいる友人の輪郭がぼやけて見えた。温度がちょうどいいと、思考が停止して、ただ呼吸の音だけが響く。そういう空白の時間こそが、旅の中で一番贅沢な調味料なのだと思う。


スカイレストラン「丹頂」から見下ろす夜景は、巨大な電子回路のようだった。35階という高さは、地上の喧騒を心地よいノイズへと変換してくれる。北海道の旬を詰め込んだ料理を口に運びながら、「大人な旅」を演じようとしたけれど、結局は誰が一番変な食べ方をしたかで盛り上がった。気取った空間に、私たちの不格好な笑い声が溶けていく。


夜のバーで、氷がグラスに当たるカランという高い音。琥珀色のカクテルを飲みながら、誰かが言い出した「もしここで一生暮らせたら」という馬鹿げた仮定の話。結局、三日で飽きるだろうと結論づけたけれど、その結論に至るまでのとりとめない会話が、何よりも贅沢な時間だった。完璧じゃないからこそ、記憶に深く刻まれる。


深夜3時、ベッドのシーツの張り詰めた冷たさに触れて、ふと目が覚めた。厚い掛け布団に潜り込むと、外の猛吹雪が嘘のように静かだ。この空に近い場所で、私たちは完全に守られている。明日にはまたあの氷の道を歩くことになるけれど、今はただ、この柔らかい闇に身を任せていたいと思った。

窓の外、街の灯りがゆっくりと呼吸している。

  • ロビーラウンジのパブロヴァは、甘いだけじゃないから、ぜひ試してみて。
  • 温泉から上がった後の、あの肌がひんやりする感覚を味わってほしい。