← 戻る OMO5函館 by 星野リゾート

カップの湯気で、街の灯りがぼやけた

鼻の奥を刺すような、氷点下の鋭い空気。誰が一番先に「寒い」と泣き言を言うか、空港に降り立った瞬間に密かな賭けを始めた。結果、一番強がっていたあいつが、OMO5函館 by 星野リゾートのロビーに足を踏み入れた途端、「生き返った……」と深く、長いため息をついた。あの濃密な温かい空気の層に包まれたとき、ようやく旅のスイッチが入った気がした。



目の前で海鮮が炙られる、パチパチという小気味よい音。潮の香りと醤油の焦げた香ばしい匂いが混ざり合い、胃袋を直接掴まれる。海鮮ファイブスターズの朝食は、もはや食事というより、胃袋への挑戦状だった。あいつがイカにわさびを盛りすぎて、顔を真っ赤にしながら水をがぶ飲みしていた姿は、この旅最高のコメディだった。


「なんでそんな薄い靴下で来たの?」バスの中で誰かがあざ笑う。OMO専用の無料バスの座席は、外の凍てつく世界を完全に遮断してくれる完璧なシェルターだった。窓の外を流れる冬の街並みを眺めながら、誰の計画が一番効率が悪かったかを言い合う。けれど、この街の圧倒的な寒さの前では、効率なんていう言葉はあまりに無力に思えた。


赤レンガ倉庫のあたりで、塩気を帯びた冷たい海風が頬を激しく叩く。イルミネーションの光が降り積もった雪に反射し、視界が白と青の幻想的な色彩に塗りつぶされていた。かっこいい集合写真を撮ろうとしたけれど、全員が寒さでガタガタと震えていて、出来上がったのは「極寒に耐える人々」というシュールな記録写真。でも、あの震えがあったからこそ、後で口にした温かい飲み物が体に染み渡った。


温泉のお湯に浸かった瞬間、凍えていた指先の感覚がゆっくりと、じわりと戻ってくる。皮膚の表面から熱が浸透し、凝り固まった肩の力がふっと抜けていく感覚。湯気の向こう側で思考が溶けていく。心地よい沈黙。誰が何を考えているかはわからないけれど、同じ温度の湯に浸かっているということだけで、言葉以上の共有ができている気がした。


ラウンジのファイヤープレイスから漏れる、柔らかなオレンジ色の光。深く沈み込むソファの感触と、薪が爆ぜる心地よい音をBGMに、とりとめもない話を続ける。外ではきっと猛烈な風が吹き荒れているはずなのに、ここでは時間が飴のように緩やかに流れている。この暖かさは、単なる温度ではなく、一緒にいることへの絶対的な安心感という形をしていた。


函館山へ向かうロープウェイの待ち時間、足元の雪がキュッキュと鳴る。深夜の静寂の中で、誰かがふと漏らした「また来たいね」という言葉。普段なら照れくさくて飲み込んでしまう本音も、この寒さと暗闇の中では、自然に口からこぼれ落ちる。不器用な私たちの関係性も、冬の夜景の下では少しだけ、優しい形に変わって見える気がした。


チェックアウトの日、スーツケースのずっしりとした重さが、旅の思い出の分量のように感じられた。入り口で再び冷たい空気に触れたとき、不思議と昨日の寒さが心地よく感じられた。完璧なプランなんてなくてよかった。迷い、震え、笑い合った時間だけが、記憶の中に鮮やかな色彩で焼き付いている。

白い息が、街の灯りに溶けて消えていった。

  • 朝食の海鮮ファイブスターズは、絶対にお腹を空かせて挑んでほしい。
  • OMO専用バスを使い倒して、寒さに負けずに街をぐるぐる回ってみて。