← 戻る OMO7旭川 by 星野リゾート

コンビニの袋が指先に張り付く温度

コンビニの袋が指先に張り付く温度

深夜二時の共犯者たち

部屋の空気は、冬の旭川らしく心地よく乾燥していた。琥珀色の間接照明がスタジオルームの隅々を柔らかく照らし、加湿器が静かに唸る低い音が、深夜二時の深い静寂に溶け込んでいる。私たちは、OMO7旭川 by 星野リゾートの誇る分厚いデュベにくるまり、まるで冬眠を待つ森の動物のように丸まっていた。このまま意識を手放せば、明日こそは完璧なスケジュール通りに旭山動物園へ向かえる。そう確信していたはずなのに、誰かが小さく、けれど抗いようのない誘惑を込めて「何か塩っぱいものが食べたい」と呟いた。その一言が、静止していた部屋の時間を激しく動かすスイッチになった。

私たちは、ある種の密かな賭けに出た。誰が一番、外の凛冽な寒さに耐えきれず「もう無理」と弱音を吐くか。結果的に、三人がかりで厚手のコートを羽織り、靴下を二重に履いて、意気揚々と部屋を飛び出した。エレベーターを降りて外に出た瞬間、旭川の夜気が、鋭い氷の針のように頬を刺した。肺の奥まで凍りつくような冷たい空気を吸い込むたび、意識が冴え渡る。コンビニまでの道のりは、地図で見ればほんの数分。けれど、マイナス十度を下回る極寒の夜の中では、そこはもう別の惑星への遠征に近かった。足元の雪が、キュッ、キュッという乾いた高い音を立てる。そのリズムが、心地よくもどこか心細い。コンビニの自動ドアが開いた瞬間、温風と共に漂ってきた揚げ物の香ばしい匂いに、私たちは同時に悟った。自分たちがなんて愚かで、そして最高に自由なことをしているのか。指先に張り付くビニール袋の冷たさが、かえって生きている実感となって心に染み渡った。

塩気と笑い声が溶け合う夜会

「ねえ、さっきの風、本当に殺しに来てなかった? 鼻水止まらんし、人生で一番寒い夜だった気がする」

コンビニから戻り、冷え切った体を震わせながら、私たちは部屋の床に直接座り込んで戦利品を広げた。袋から出されたのは、地域のコンビニでしか売っていない限定のスナックと、湯気を立てる温かいおでん、そしてなぜか衝動的に買った大量のチョコレート。誰がどこに座るかという、取るに足らない陣取り合戦が始まる。ビニール袋がガサガサと鳴る音が、静かな部屋に賑やかに響いた。

「いいじゃん、この状況。計画は全部崩れて、結局夜中にコンビニに走って、こんなところでポテチ食べてる。これこそ旅の醍醐味って感じじゃない?」

「言い方。計画を崩したのは、昼間に道に迷って三時間も同じところを回ってた君だよ。おかげで予定の半分も回れなかったんだから」

「あはは! でもさ、あの時見つけた名もなき路地裏、雪が積もってて結構いい雰囲気だったじゃん」

「雰囲気で腹は膨れないから」

そう言いながら、相手の口に強引にチョコを押し込む。笑い声が部屋の壁にぶつかり、心地よく反響して戻ってくる。もぐもぐと口を動かしながら、私たちは明日行く予定の場所について、あえて適当な空想話を始めた。誰が一番、ありえないルートを提案できるか。もはや目的地に辿り着くことよりも、どうやって迷い込むかの方が重要に思えてくる。一人が笑いすぎて、持っていた飲み物を少しだけ床にこぼした。慌ててティッシュで拭き取るその不器用な動きさえ、今の私たちには愛おしい。完璧なスケジュール表に従って、チェックポイントを塗り潰していく旅なんて、誰が決めた正解なのか。そんなことはどうでもよくなった。ただ、目の前にある塩気の強いお菓子と、くだらない冗談、そしてこの部屋の温もりがあれば十分だった。

満たされた胃袋と、凪のような静寂

最後の一片まで食べ尽くし、散らかった袋を片付ける。部屋には、かすかに揚げ物の匂いと、心地よい疲労感が残っていた。さっきまでの喧騒が嘘のように、ふっと凪のような静寂が戻ってくる。私たちは、再びあの分厚い布団の中へ潜り込んだ。布団との綱引きに勝ち、ようやく自分だけの温もりの領域を確保する。外ではまだ、冷たい風が建物の隙間を通り抜けて、冬の孤独を運んでいるのかもしれない。けれど、今の私たちにとって、その寒さは心地よいコントラストでしかなかった。

目を閉じると、耳の奥でまだコンビニの袋が鳴っているような気がする。あるいは、誰かが小さく笑った残響かもしれない。孤独であることは、寂しいことではなく、自分という器官を大切に育てることだと思っていたけれど、こうして誰かと「不便さ」や「失敗」を共有できる時間は、それとは別の、けれど同じくらい大切な何かを私に教えてくれる。明日、目が覚めた時に、また誰かが「やっぱりあそこに行きたい」とわがままを言うだろう。それでもいい。迷い、間違え、空腹に耐え、そして笑い合う。その不完全な軌跡こそが、この旅の本当の輪郭なのだと思う。意識がゆっくりと遠のいていく中で、隣で寝息を立て始めた友人の気配が、静かな安心感となって身体に染み渡っていった。

窓の外では、静かに、けれど確実に雪が降り積もっていた。

  • 旭川限定の塩味スナック。深夜の静寂に響く咀嚼音が、旅の最高のスパイスになる。
  • 熱々のコンビニおでんと濃厚なホットチョコレート。冷え切った心身を芯から溶かす至福のセット。