← 戻る しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座

午前6時の氷が割れる音と、冷え切った指先

午前6時の氷が割れる音と、冷え切った指先

5年後の私たちへ。覚えているかな。3月の空気が冷たい針のように肌を刺し、桜の開花予想を真面目に議論しながら、実際には寒さにガタガタと震えていた私たちの、あのひどく滑稽で、けれどたまらなく愛おしい姿を。

5年後も指先に、心に、刻まれているはずの断片

万歴継承壁に触れた、あの無骨なざらつき。
ロビーにそびえる8メートルの壁。1万個ものしじみが埋め込まれたその表面は、湿った土と古い記憶が混ざり合ったような匂いが漂い、手のひらにできた硬いタコのように無骨だった。縄文から現代まで、膨大な時間を無理やり圧縮して積み上げたその感触は、喧嘩しては笑い合った私たちの、不器用でめちゃくちゃな友情の履歴書のようで、思わず指先で何度もなぞり続けた。

ヒメマスの、淡い桜色に染まった記憶。
口の中でほどける身の柔らかさと、鼻に抜ける清冽な湖の香り。琥珀色の柔らかな照明が灯るダイニングに、カトラリーが触れ合う繊細な音が心地よく響く。私たちは「大人の贅沢」を演じようと背伸びをしてみたけれど、結局はいつもの調子で誰かの失敗談を笑い飛ばしていた。あのときの、少しだけ気恥ずかしい空気感と、舌の上に広がった濃厚な脂の温度だけは、今も鮮明に思い出せる。

深夜3時、エグゼクティブスイートヴィラのタイルの冷たさ。
部屋に満ちる清々しいリネンの香りと、深い静寂。スイートルームの広さは、夜中にふと目が覚めたとき、自分の足音が静寂に小さく反響する距離で気づかされる。裸足で踏み出したタイルの冷たさが、心地よい眠りに落ちていた意識をゆっくりと、けれど確実に引き戻していく。隣の部屋で誰かが寝返りを打つ衣擦れの音さえ、この静謐な空間ではひとつの心地よい音楽のように聞こえた。

シャトルバスの窓に描いた、稚拙な落書き。
結露して白く曇った窓ガラスに、誰が一番ひどい顔を描けるか競い合ったこと。温かい吐息で曇ったガラスに指を滑らせると、冷たい感触が指先に伝わる。「見てよこれ、似すぎ!」という誰かの笑い声が車内に弾ける。窓の外には、吸い込まれるような支笏湖ブルーの深い青が広がっていたけれど、私たちはその絶景よりも、窓の中の小さな世界に夢中だった。あのとき、誰が一番最初に「やっぱり寒い」と白旗を上げたか、今でも賭けられている。

5年後の封筒をそっと開けたとき

きっと、旅のスケジュールや写真は意味をなさなくなっているだろう。でも、「しこつ湖 鶴雅別荘 碧の座」で過ごした時間の「層」だけは、記憶の底に沈殿しているはずだ。忘れ物や迷路のような時間という「欠落」こそが、旅の輪郭を作っていた。あの土壁のように、失敗を重ねてできた私たちだけの地層。湖の深さに似た不安さえも、隣で一緒に凍えていたという体温が、どんな正解よりも大切だったのだと気づかせてくれる。

ウッドデッキに、濡れたサンダルが残した白い足跡。

  • 厚手のストールを忘れずに。かっこつけて薄着をすると、後で絶対に後悔するから。
  • 朝はアラームをかけないこと。湖面に光が差し込むタイミングに、身を任せてみて。