← 戻る コンフォートホテル函館

指先が触れたときの、かすかな体温

もし、この部屋を予約するかどうか迷っているのなら。あるいは、誰かと一緒に過ごす時間の正解を探しているのなら。この手紙を読んでほしい。完璧なプランなんてなくても、ただ隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っているだけで十分なこともある。そんな、不確かで心地よい旅の記録をここに残します。


吐息が白く溶ける、駅からのわずかな距離

JR函館駅に降り立った瞬間、肺の奥まで凍りつくような冷気が流れ込んできた。1月の北海道の空気は、まるで薄いガラスの壁のように鋭くて、触れると指先から体温が奪われていく。駅を出て、コンフォートホテル函館へ向かうわずか2分の道のり。アスファルトに撒かれた凍結防止剤のざらついた感触が靴底を通して伝わり、時折、強い風が吹いては二人の肩を無理やり近づける。君がマフラーに顔を埋めて、小さく笑ったとき、その吐息が白く、ゆっくりと夜の闇に溶けていくのが見えた。その瞬間、この寒さがあるからこそ、これから向かう場所の温もりが、より鮮やかな意味を持つのかもしれないと感じた。

ホテルのエントランスに足を踏み入れたとき、外の鋭い空気とは対照的な、柔らかい熱量に包まれる。それは、冷え切った指先がゆっくりとほどけていくような、液状の安心感だ。ラウンジのソファに腰を下ろすと、低い天井と落ち着いた照明が、外の世界から切り離された小さなシェルターのように感じられる。誰かが淹れたコーヒーの香りが、かすかに、けれど確実に鼻腔をくすぐる。私たちはそこで、あえて次の予定を決めずに、ただぼーっと外の雪景色を眺めていた。予定を詰め込まない贅沢というものが、こういうことなのだろうか。ふと、君が地図を広げようとして、指先が悴んでいたせいで紙をうまく開けず、二人で小さく笑い合った。そんな、取るに足らない、けれど愛おしい空白の時間があることに、気づかされる。


140センチの幅に、二人だけの呼吸を合わせて

ダブルエコノミーという名前の部屋は、12.6平方メートルという、ある種の親密さを強いる広さだった。けれど、その狭さが心地よかった。140センチ幅のベッドに二人で横たわると、物理的な距離が消え、相手の呼吸のリズムがダイレクトに伝わってくる。隣で眠る君の体温が、布団の隙間からじわりと伝わり、それが世界で一番信頼できる温度であるように思えた。深夜、エアコンのかすかな作動音が部屋の静寂を縁取り、その音のおかげで、かえって二人だけの空間が濃密に感じられる。もしかすると、広すぎる部屋よりも、こうして肩が触れ合う距離にいることの方が、今の私たちには必要だったのかもしれない。言葉にしなくても、体温を通じて「ここにいていいんだ」と確認し合える、そんな静かな肯定感に包まれていた。

翌朝、ライブラリーカフェでいただく朝食。湯気が立ち上る料理の温度が、ゆっくりと内臓から体を温めていく。パンの香ばしさと、淹れたてのコーヒーの苦味が、眠っていた意識を優しく呼び起こす。窓の外には、静かに降り積もる雪。私たちは、これから向かう初詣の場所について、断片的な言葉を交わしながら、ゆっくりと時間を消費した。宿泊することで、どこかの誰かの助けになるというプログラムがあることを知り、自分たちが心地よく過ごしていることが、巡り巡って誰かの力になるという感覚。それが、旅という個人的な快楽に、小さくて温かな意味を付け加えてくれた気がする。正解のない旅を、ただ一緒に歩いている。それだけで、十分な気がした。


雪が止み、空が淡い青に染まり始めた頃に。
  • 駅からホテルまで、あえてゆっくり歩いて、1月の冷たい空気の密度を肌で感じてみてほしい
  • 朝食後のラウンジで、あえてスマホを置いて、隣にいる人の呼吸の音に耳を澄ませてみることをおすすめする