← 戻る ドーミーイン帯広

指先が触れたとき、少しだけ温度が混ざった

指先が触れたとき、少しだけ温度が混ざった

「ここ、本当に暖かいね」

「寒いね」君がそう言って、厚手のマフラーに顔を深く埋めた。
「うん。空気が凍ってるみたいだ」
JR帯広駅からドーミーイン帯広まで、わずか5分の道のり。けれど、肺の奥まで凍りつくような冷気に、僕たちは肩をすくめて急いだ。耳たぶを叩く鋭い風が止み、ホテルの自動ドアが開いた瞬間、ぬるりと温かい空気が僕たちを包み込む。
「でも、中に入った瞬間のこの匂い、好き」
君が小さく笑う。冷え切った指先に、ゆっくりと熱が戻ってくる感覚があった。

湿度に溶けていく、名前のない時間

11月の帯広は、街全体が静謐な灰色に塗りつぶされている。歩道に舞う枯葉が乾いた音を立てる外の世界とは対照的に、ここだけは濃密な時間が流れていた。2階の「白樺の湯」に足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりつくような湿度の重みが心地よい。視界を白く染める湯気の向こうで、隣にいる君の輪郭がぼんやりと滲んでいく。熱い湯に身を委ねると、皮膚の境界線が曖昧になり、自分がどこまでで、どこからが水なのか分からなくなる。それは、僕たちがこれまで無意識に張り巡らせていた心の境界線が、温度によってゆっくりと溶かされていく過程のようだった。強張っていた肩の力が抜け、君が「水が柔らかいね」と小さく呟く。その声が湯気に吸い込まれ、心地よい残響だけが耳に残った。

風呂上がりのロビーで、僕たちはどちらからともなくアイスクリームを手に取った。浴衣姿で、髪からはまだ雫が滴っている。お互いに少しだけ格好悪い格好をしていたけれど、その不完全さがたまらなく愛おしかった。同じフレーバーを選んだことに気づき、視線がぶつかって、同時にふふっと笑い合う。計画した旅程表には決して書き込めない、ささやかな、けれど確かな幸福。それは、人生における正解よりもずっと価値があるものだと、冷たい甘さが舌の上で溶けるたびに確信した。

深夜、無料の夜鳴きそばを啜る時間は、静寂の共有だった。丼から立ち上る白い湯気が、二人の間に薄いカーテンのように降りていた。醤油の香ばしい匂いと、深夜特有の心地よい孤独感。誰にも邪魔されないけれど、隣に誰かがいるという絶対的な安心感。部屋に戻り、清潔なリネンのひんやりとした感触に体を預けたとき、窓の外で鳴り響く冬の風が、かえって室内の静けさを際立たせていた。ドーミーイン帯広の夜は深く、けれどこの部屋の中だけは、僕たちの呼吸が心地よいリズムで重なり合っている。

翌朝、街へ出たときに出会ったホエー豚丼の香りは、強烈なほどに食欲をそそった。甘辛いタレが炭火で焦げた香ばしさが鼻腔を突き、口の中で肉の脂がとろける。その濃密な味わいが、冷え切った身体に生命力を流し込んでくれる。僕たちは「美味しいね」と言い合いながら、また次の目的地へと歩き出した。もしかすると、僕たちはまだお互いのことを完全には理解していないのかもしれない。けれど、この温度を共有できたことだけで、十分なのだと思う。

窓の外で冬の風が鳴り響いていたけれど、この温もりがあれば、もう何も怖くなかった。

  • 近くの店で、地元ならではの濃厚な豚丼を二人で分かち合ってみて。
  • お風呂上がりには、ぜひ迷わずアイスクリームを。それが一番の贅沢だから。