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濡れた歩道に響く、スーツケースの不揃いなリズム

濡れた歩道に響く、スーツケースの不揃いなリズム

凍てつく空気に溶け出す、不器用な旅の始まり

帯広駅の自動ドアが開いた瞬間、肺の奥まで突き刺さるような鋭い冷気が流れ込んできた。4月の北海道は、春という名のお面を被ってはいるが、実際には冬がしぶとく居座っている。誰かが「ここから徒歩5分だって」とスマホの地図を掲げたが、私たちはあえて最短ルートを無視することにした。誰が一番に方向感覚を失い、迷子になるかという、大人のすることとは思えないくだらない賭けを始めたからだ。石畳を叩くスーツケースの車輪が、不揃いなリズムで乾いた音を街に響かせている。歩幅がバラバラな四人の足音が、重なり合っては離れ、また重なる。誰かが後ろで盛大に躓き、それを見たもう一人が、わざとらしく大きな声で笑い飛ばす。そんな、なんてことのない喧騒が、冷え切った空気の中で心地よい温度を持って漂っていた。もしかすると、目的地に辿り着くことよりも、この不自由で不確かな歩き方そのものを、私たちは密かに楽しんでいたのかもしれない。冷たい風に頬を叩かれながらも、隣で笑う友の体温がかすかに伝わり、凍えた心に小さな灯がともるのを感じていた。

スパイスの誘惑と、指先に触れた春の予感

ふと、どこからか濃厚で刺激的なスパイスの香りが鼻腔をくすぐった。インデアンカレーの店が近くにあるのだろう。空腹という本能が、急に身体の輪郭を鮮明にする。「今ここで食べようよ」という誘惑と、「先にホテルに荷物を置こう」という正論が交錯し、私たちはしばらくの間、その香りの正体を追いかけるように足取りを緩めた。道端にある案内標識の金属製の手すりにふと手を触れると、指先から凍りつくような冷たさが一気に伝わってきた。けれどその冷徹さは、今の私たちにとってある種の心地よさだった。新生活が始まり、誰もが何かしらの緊張や不安を抱えている4月。その張り詰めた気持ちが、この街の冷気と共鳴しているような気がした。「本当は緊張してるんだろ?」そんな軽口を叩き合い、弱さを冗談に変換して共有できる関係が、今の私たちにはちょうどよかった。街路樹の芽吹きはまだ小さく、灰色の空の下で震えているように見えたが、風の中にはかすかに湿った土と、目覚め始めた生命の匂いが混じっていた。それは、冬の終わりを告げる静かな合図のように感じられ、私たちの心に小さな期待を灯した。

ドーミーイン帯広、心まで解きほぐす温もりの正体

ようやく辿り着いたドーミーイン帯広のロビーに足を踏み入れた瞬間、外の世界の冷たさが嘘のように消え去った。温度の変化は、皮膚に触れる空気の密度がふわりと変わる感覚に近い。部屋に入ると、まず誰がどのベッドを確保するかという、子供のような争奪戦が始まった。ツインルームの限られた空間に、四人の荷物が乱雑に広がっていく。けれど、その混沌とした様子さえも、旅の高揚感と相まって心地よい安心感に変わっていく。一番の楽しみだった「白樺の湯」へ向かうと、そこには湯気で白く煙った静寂があった。天然温泉の熱いお湯が肩まで浸かったとき、指先の強張りがゆっくりと溶け出し、身体の芯から力が抜けていくのがわかった。お湯の温度がちょうどよく、肌にまとわりつく感覚が、凝り固まった思考を柔らかく解きほぐしていく。それはまるで、凍った大地が春の陽光に溶かされるような心地よさだった。

湯上がりには、深夜の特権である「夜鳴きそば」を啜った。湯気と一緒に立ち上がる出汁の香りが、空腹だった胃袋を優しく満たしていく。麺の喉越しと、深夜という時間帯がもたらす特有の解放感。私たちは、誰が一番多く食べたかを競い合いながら、明日どこへ行くかという計画を適当に立て直した。結局、計画なんてものは、その場の気分で書き換えられるからこそ旅なのだと思う。ふかふかのベッドに体を沈めると、リネンの清潔な香りと、適度な弾力が身体を包み込んだ。隣で誰かが小さく寝息を立て始めている。その規則正しい音を聞きながら、私は自分が今、とても正しい場所にいるのだと感じた。

窓の外では、帯広の夜風が静かに街の眠りを誘っていた。

  • 駅から徒歩圏内のインデアンカレーで、地元ならではの濃厚な味わいを体験すること
  • 白樺の湯で身体を芯から温めた後、無料のアイスで温度差を楽しむこと