← 戻る ホテルリソル 函館

耳の奥で、路面電車の音が小さく跳ねていた

耳の奥で、路面電車の音が小さく跳ねていた

異なるリズム、重なり合う視線

JR函館駅からホテルまで歩く3分間、ぬるい夜風が肌にまとわりついていた。けれど、ホテルリソル函館の入り口で靴を脱いだ瞬間、足裏に触れたフローリングのひんやりとした質感が、心地よく思考をリセットしてくれた気がする。shoes-offという境界線を越えたとき、外の世界の喧騒がふっと遠のき、代わりに静かなウェルカムアロマが鼻腔をくすぐった。まるで、日常という重い鎧を脱ぎ捨てたかのような解放感。ロビーの柔らかな照明が、旅の緊張で張り詰めていた心をゆっくりと解きほぐしていく。部屋に入り、オリジナルベッドに体を沈めると、シーツのパリッとした感触が、今日一日の疲れを丁寧に剥がし取ってくれる。マリンランプが投げかける淡い青色の光が壁に揺れていて、その光はまるで、深い海の底に潜り込んだかのような錯覚を覚えさせた。函館という港町に身を置いていることを、静かに、けれど鮮やかに思い出させてくれる装置だ。その静寂の中にいると、私たちは無理に言葉を交わさなくてもいいのだと感じられた。もしかすると、この心地よい沈黙こそが、今の私たちに必要な距離感だったのかもしれない。


窓の外からは、路面電車が走るガタンゴトンという低い振動が、心地よいリズムとなって部屋に流れ込んできていた。それはまるで、街全体の鼓動を聴いているような感覚。盆踊りの太鼓の音が遠くで鳴り響き、夜空に打ち上がった花火の振動が、胸の奥に小さく、けれど確かに響いた。エアコンの冷気が、祭りで火照ったうなじを冷やしていく。「ねえ、ここ、すごく静かだね」と君が小さく囁いた。その声が、心地よい静寂に溶けていく。私は答えず、ただ君の肩にそっと頭を預けた。隣に座る君の呼吸が、ゆっくりと深く、私のリズムと同調していくのがわかった。何を話すべきか、あるいは何を話さないべきか。正解なんてないけれど、ただここに一緒にいて、同じ振動を共有しているという事実だけに、言いようのない安心感を覚えていた。それは、寄せては返す波に身を任せているときのような、絶対的な受容感に近い。というか、そういう不確かな時間こそが、旅の本当の価値なのだという気がしてならなかった。

二人が見つけた、たった一つの輪郭

翌朝、レストランで向き合ったとき、私たちは同時にメニューにある「Eatwell Breakfast」のアイコンに目を留めた。管理栄養士が監修したというその小さな記号たちは、今の自分の身体が何を求めているかを静かに教えてくれる。君は「今日はこれを食べて、エネルギーを充電したい」と笑い、私は「今の気分は、この軽い食感のものかな」と呟いた。地元の食材を使った料理が運ばれてきたとき、その湯気と共に広がった香ばしい匂いと、温かいプレートの温度。私たちは、お互いが何を選び、どう感じているかを、言葉ではなく視線と小さな頷きで確認し合った。栄養学的な正しさよりも、その時、その場所で「美味しいね」と笑い合えたこと。その瞬間だけは、二人の視界が完全に重なり、一つの確かな記憶として刻まれた気がする。


帰り道、駅へと向かう路面電車の窓に映る自分たちは、少しだけ柔らかい表情をしていた。
  • 領事館やキリスト教会まで、あえて地図を見ずに路地裏の空気を楽しみながら歩いてみるのがおすすめ。
  • ラウンジの静かな空間で、旅のしおりを閉じ、ただ隣にいる人の体温を感じながらぼーっと過ごしてほしい。