← 戻る ラビスタ函館ベイANNEX

重い布団の下で、誰かが笑った

真夜中の共犯者、誰が「食べたい」と言い出したか

2月の函館。風は単なる冷気ではなく、物理的な質量を持って肌を叩きつける氷の壁のようだった。駅からのわずか10分の道のりが、凍えきった指先にはまるで別の都市へ向かう果てしない旅のように長く感じられた。足元の雪が、踏みしめるたびにギュッ、ギュッという鈍い音を立て、夜の静寂を切り裂く。ラビスタ函館ベイANNEXの重厚なドアを押し開けた瞬間、外の鋭利な冷気がふっと消え、代わりに温かく、どこか古書のような、落ち着いた木の香りと共に、このホテルが湛える「浪漫」の空気が鼻腔をくすぐった。私たちは、コンビニで買い込んだ大量の袋をガサガサと鳴らしながら、わざわざ「贅を知る大人のための静謐な空間」と謳われるロビーを、少しだけ申し訳なさそうに横切った。誰が言い出したか、私たちはこの旅で一番「不相応な」食卓をこの部屋で作ろうと、密かに共犯関係を結んでいた。

味がしなくなるまで、贅沢な不作法を語り合う

「ねえ、ちょっと待って。この部屋、想像以上に豪華じゃない? クラシカルな家具に、このしっとりとした照明。こんな場所でポテトチップスを広げるなんて、なんだか文化的な罪を犯してる気分なんだけど」

「いいじゃん、それが大人の贅沢っていうもんでしょ。っていうか、あんたさっき梅まつりの途中で『お腹空きすぎて、あの赤い梅の花が全部天ぷらに見える』って真顔で言ってたよね」

「だって、あの刺すような寒さの中を1時間も歩かされたんだもん。結果的に、あの凍えそうな空気があったからこそ、この部屋の暖房が天国みたいに心地いいっていう高度な計算だよ」

「計算しすぎ。っていうか、このチョコ、バレンタイン用? 誰に渡すつもりなの。もしかして、この旅で誰かいい人でも見つけた?」

「誰って、ここにいるあんたたちに決まってるじゃん。まあ、半分は私が食べるけど。っていうか、この部屋のベッド、柔らかすぎて一度入ったら二度と出られない気がする」

私たちは、和洋折衷様式の端正な空間に身を置き、高級感のあるリネンにわざとポテトチップスの欠片を落としそうになりながら、くだらない言い合いを続けた。外ではまだ雪が降り続き、街のどこかで節分の豆まきが行われ、誰かが春を呼んでいるのかもしれない。けれど、この部屋の中だけは、私たちのくだらない笑い声と、安っぽいお菓子の匂いだけが支配していた。それが、どんな高級なディナーよりも、今の私たちには正解に思えた。結局、誰が一番たくさん食べたかという、どうでもいい賭けに時間を使い、深夜2時を回っても、会話のテンポは上がる一方だった。

満たされた胃袋と、心地よい空白の時間

食べ終えた後の静寂は、心地よい重さを持って降りてくる。指先に残ったわずかな塩気と、天然温泉に浸かって芯まで温まった後、ゆっくりと冷めていく肌の感覚。ラビスタ函館ベイANNEXのベッドに深く沈み込むと、自分の体温が、ゆっくりと、けれど確実にシーツに吸い込まれていくのがわかる。誰かが小さくあくびをし、それに応えるように別の誰かが布団を深く被り直した。完璧なプランなんて、最初から必要なかったのかもしれない。豪華な設備や、ガイドブックに載っている有名な観光地を効率よく巡ることよりも、こうして深夜に、どうでもいい話をしながら、同じ温度の空間に身を置くこと。その空白のような時間が、旅の本当の輪郭を形作っているという気がする。外を走る風の音が、遠い世界の出来事のように聞こえる。私たちは、心地よい疲労感と、お互いの呼吸の音に包まれながら、ゆっくりと意識を夜の深みに溶かしていった。もしかすると、明日もまた誰かが遅刻して、私たちは互いに文句を言い合いながら街へ出るのだろう。けれど、その不自由ささえも、この部屋の静けさの中では愛おしい記憶の一部になる。

枕元のランプを消すと、部屋に深い藍色の夜が満ちた。

  • 函館の地酒と、地元コンビニで買える塩味の珍味の組み合わせ。
  • 寒い夜の締めくくりに、温かいホットミルクと地元の小菓子。