← 戻る ルートイングランティア函館駅前

笑い声が、少しだけ冷たい空気に溶けた

鼻先の皮膚がピンと張り詰める、4月の函館の空気。駅を出た瞬間、誰が一番先に「寒い」と口にするか賭けたけれど、結局全員が同時に肩をすくめた。ルートイングランティア函館駅前までの道は、わずか徒歩3分。冷たい海風が頬を叩く短い距離で、僕たちの会話は「どこで食事をするか」という深刻な議題から、「誰のコートが一番ダサいか」という不毛な議論へと、軽やかに転がっていった。



朝食プレートに並んだ塩鮭の、あの少し尖った塩気。口の中でじわっと広がる脂の温度が、まだ眠い意識をゆっくりと、けれど確実に起こしてくれる。誰かが「北海道に来た気がする」と呟いたけれど、僕たちはそれをあえて無視して、おかわりのお粥を誰が先に確保するかという静かな競争に没頭していた。温かい湯気が眼鏡を曇らせるたび、胃袋が満たされる感覚が、旅の不安を心地よい安心感へと塗り替えていく。


部屋に入ってすぐに始まった、VODルームシアターで何を観るかという泥沼の争い。「センスがなさすぎる」と互いの好みを切り捨て合い、結局、誰の好みでもないB級映画に決まった。それが正解だったのかもしれない。画面から流れる安っぽい効果音と、それに対して飛ばされる容赦ないツッコミ。狭い空間に充満する笑い声が、外の冷たい風を完全に遮断し、僕たちだけの密室を温めていた。


「駅から本当に3分で着くのか」という疑念を解消するために、わざわざストップウォッチで計測した友人。結果は2分40秒。誇らしげに胸を張った直後、彼は小さな段差に躓き、派手に荷物をぶちまけた。ガシャリという金属音と共に散らばる小物を、僕たちは全力で笑いながら眺め、彼に「罰としてコンビニで飲み物を買ってこい」と指示した。こういうくだらなさが、旅の正解なのだろう。


天然温泉の白い湯気に包まれているとき、自分と世界の境界線が曖昧になる感覚がある。お湯の重みが肌にまとわりつき、凝り固まった肩の力が、ゆっくりと溶け出していく。隣で誰かが「あー、生き返る」と情けない声を上げているけれど、それが心地よいBGMのように耳を通り抜けていった。湯上がり後の肌に触れる、刺すような冷たい空気の感触が、かえって体の芯にある熱を鮮やかに際立たせてくれる。


ベッドに倒れ込んだとき、シーツのパリッとした清潔な質感が頬に触れた。120センチのセミダブルという絶妙なサイズ感が、一人で寝るには贅沢で、二人で寝るには少しだけ窮屈な、そんな絶妙な距離感を教えてくれる。部屋の隅で静かに鳴っているエアコンの低周波が、深い眠りへと誘うガイドラインのように感じられた。間接照明の柔らかな光が、旅の疲れを優しく包み込んでいた。


ふと見上げた窓の外、風に舞った桜の花びらが一枚だけ、友人の黒いコートの肩に止まった。本人は気づかずに「次はどこ行く?」とせっかちに急かしている。その小さなピンク色の点と、彼のぶっきらぼうな横顔のコントラストが、なんだかとても滑稽で、同時に愛おしく見えた。わざわざ写真に撮らなくていい。この瞬間だけは、僕たちだけの秘密の景色にしておこうと思った。


チェックアウトのとき、エレベーターの中でふと訪れた沈黙。気まずいわけではなく、ただ、この心地よい気圧のバランスが崩れるのが惜しいと思っただけ。Route Inn Grantia Hakodate Ekimaeを出て、再び冷たい風に打たれたとき、僕たちは自然と肩を寄せ合って歩き出した。正解のない旅だったけれど、この不完全さが、何よりも心地よかった。

靴の先で、小さな桜の花びらを軽く踏んだ。

  • 駅前だから、チェックイン前にコンビニで地元の珍しいお菓子を買い込んで部屋で宴会してほしい
  • 温泉の後は、わざと冷たい外気に当たってから、ふかふかのベッドに飛び込む快感を味わって