← 戻る 京王プレリアホテル札幌

小さな靴下が床を滑る、静かな音

小さな靴下が床を滑る、静かな音

ベッドサイドの小さなテーブルに、誰が置いたのかわからないプラスチックの恐竜が一匹、尻尾を少し曲げて転がっていた。おそらく、チェックインの時に上の子がうっかり忘れていったのだろう。その小さなプラスチックの塊が、この部屋に流れる時間の速度を、心地よく緩やかなものに変えてくれる気がした。

喧騒を離れ、家族の呼吸を整える場所へ、なぜここを選んだのか?

JR札幌駅からホテルまで、歩いてわずか3分。この「3分」という短い距離が、家族旅行においては、ある種の重要な作戦時間になる。ベビーカーを押し、上の子の「あっちに行きたい」という好奇心に応え、誰かが靴紐を結び直す。そんな小さな混乱を繰り返しながら歩く道すがら、9月の札幌の空気は、凛として冷たく、鼻の奥をツンとさせる。秋の訪れを告げる乾いた風が頬を撫で、街路樹がかすかに色づき始めていた。私たちは、分刻みの完璧なプランを立ててきたつもりだったけれど、実際にはそのプランの半分も機能していなかった。「予定通りにいかないのが旅の醍醐味」と自分に言い聞かせるものの、親としての焦燥感は消えない。けれど、京王プレリアホテル札幌のロビーに足を踏み入れた瞬間、その張り詰めていた空気が、ふっと緩むのがわかった。モダンで洗練された清潔感のある空間でありながら、どこか懐かしい温もりに包まれている。それは、効率的なシステムと、スタッフの方々の体温が、ちょうどいいバランスで混ざり合っているからだろう。家族という、個性の強い集団が、それぞれのペースで「いま、ここにいる」ことを許される場所。そんな感覚が、ここにはある。私たちは、有名な観光スポットを巡ることよりも、この心地よい静寂に身を委ねることの方に、より深い価値があるのではないかと、ふと思った。

子供たちが一番気に入ったのは、どの瞬間だったか?

朝食ブッフェに並ぶ料理の数々は、子供たちにとっての壮大な「宝探し」だった。北海道の豊かな大地が育んだ新鮮な食材たちが、宝石のように色鮮やかに並んでいる。焼きたてのパンの香ばしい匂いと、淹れたてのコーヒーの深い香りが混ざり合い、食欲を心地よく刺激する。次男が「このバター、金色の雲みたい!」と歓声を上げたとき、隣にいた上の子は、静かに、でも真剣な眼差しで地元の彩り豊かな野菜を味わっていた。口いっぱいに頬張ったときの、満足げな顔。それを眺めているだけで、旅の疲れが指先からゆっくりと溶け出していく。そして、何より子供たちが心待ちにしていたのが大浴場での時間だった。湯気で視界が白く霞む中、お湯の温度がちょうどよく、子供たちは水遊びに夢中になっていた。心地よい反響音とともに、弾けるような笑い声が空間いっぱいに広がる。大人は、子供たちの安全を確認しながら、なんとか自分たちも肩までお湯に浸かり、凝り固まった筋肉を解きほぐしていく。それは、優雅な温泉体験というよりは、賑やかな「水上作戦」に近いけれど、その混沌とした時間こそが、後になって一番鮮明に思い出される記憶になるはずだ。お風呂上がりに、冷たい飲み物を飲みながら、子供たちが「明日もここに来たい」と呟いたとき、私たちは、この旅の正解をようやく見つけた気がした。また、女性専用ラウンジのような細やかな配慮がある空間のおかげで、母親である私も、ふっと肩の力を抜いて自分を取り戻すことができた。豪華な設備があることよりも、子供たちが自分の好奇心に従って、何かを発見できる「隙間」があること。それが、このホテルが持つ、静かな魅力なのだろう。

ここを去るとき、心に何が残っているだろうか?

夜、部屋のカーテンを開けると、札幌の街の灯りが、プリズムを通した光のように細かく砕けて見えた。琥珀色や白銀色の光が重なり合い、まるで巨大な宝石箱を覗き込んでいるかのようだ。窓際のベンチソファに、家族で寄り添って座る。外はもう、秋の気配が濃くなり、夜風はひんやりとしている。上の子が、ふと「明日になったら、もうここじゃないんだね」と呟いた。その声は、少しだけ寂しそうで、でもどこか満ち足りた響きを持っていた。私たちは、旅の間ずっと、何かに追われるように動いていた。けれど、この部屋の柔らかい照明の下で、ただ一緒に座っているだけの時間が、何よりも贅沢に感じられた。思い出というのは、きっと、劇的な出来事ではなく、こういう「何でもない瞬間の集積」なのだろう。肌に触れるシーツの心地よい温度や、深夜にこっそり分かち合ったお菓子の甘い味。それらが、光の屈折のように重なり合って、一つの心地よい残像となって心に残る。私たちは、完璧な家族旅行を成し遂げたわけではない。けれど、不器用に、迷いながら、それでも一緒に笑い合えた。そのことが、何よりも大切だったのだと思う。

明日もまた、小さな靴下が床を滑る音が聞こえてきそうだった。

  • 札幌駅からの短い散歩道で、秋の澄んだ空気を吸い込みながら、子供と一緒に季節の小さな変化を探してみてください。
  • 朝食ブッフェでは、北海道の豊かな大地の恵みを味わい、家族で「今日の一番好きな味」を競い合ってみてください。