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窓の外のオレンジ色が、ゆっくりと溶けていく

窓の外のオレンジ色が、ゆっくりと溶けていく

舌の上でほどける、黄金色の安らぎ

立ち上る白い湯気が、視界をわずかにぼやけさせる。目の前に運ばれてきたのは、レストラン「オードリー」の看板メニューであるオムレツだ。美瑛産の濃厚な牛乳と下川産の卵が織りなす、淡く鮮やかな黄色。フォークを入れた瞬間、形を保っていたはずの塊が、音もなく、しっとりとほどけていく。口に運べば、温かさと柔らかさが同時に押し寄せ、北海道の豊かな土と水が育んだ滋味が、ゆっくりと味蕾に染み込んでいった。それはまるで、乾いた真っ白な紙に一滴の絵具を落としたときのように、静かに、けれど確実に心地よさが広がっていく感覚に似ている。隣に座る君は、まだ半分も食べていない。けれど、時折こちらを見て、小さく頷く。その静かなリズムが、何よりも心地いい。「無理に言葉を詰め込まなくてもいいんだ」と、このふわふわとした食感のおかげで気づかされた気がした。トマトケチャップの鮮やかな酸味が心地よいアクセントとなり、眠っていた意識がゆっくりと覚醒していく。朝の七時。世界が完全に起き切る前の、淡い光に包まれた時間。私たちはただ、同じ温度の食事を共有している。それだけで、もう十分な気がした。

窓辺の冷気と、肌に触れる静寂

食事を終え、札幌ビューホテル 大通公園のスタンダードツインルームに戻ると、そこには深い静寂が待っていた。といっても、完全な無音ではない。遠くで車の走行音が低く響き、時折、誰かの話し声が秋の風に乗って届く。そんな微かな都市のノイズが、むしろこの空間の静けさを際立たせていた。ベッドに体を沈めると、上質なマットレスが私の体重をゆっくりと受け止める。その感覚は、深い水底へゆっくりと沈んでいくときのような、心地よい重力だった。指先に触れるのは、ワッフル地のナイトウェア。凹凸のある生地が肌に触れるたび、心地よい刺激が走り、旅の緊張がほどけていく。そのまま窓際に歩き、眼下に広がる大通公園を見下ろした。十月の札幌。木々は燃えるようなオレンジ色に染まり、冷たい空気がガラス越しに伝わってくる。指先で窓に触れると、ひんやりとした感触に、ふと心細さがよぎった。けれど、すぐ隣に君がいる。二人の距離は、あと数センチ。そのわずかな隙間に、心地よい緊張感と親密さが同居している。私たちは、お互いの輪郭をあえてぼかしたまま、ただ外の景色を眺めていた。何かを言い合って、答えを出す必要はない。ただ、同じ色の景色を眺めているという事実。それが、私たちの間にある見えない境界線を、ゆっくりと溶かしていく。まるで水に溶ける塩のように。あるいは、繊維の奥まで浸透していく染料のように。心地よい静寂が、部屋の隅々まで満たされていた。

甘い記憶と、不完全な私たちの時間

午後、私たちは「プレミアムラウンジ コモレビ」に身を置いていた。目の前の大きなモニターには、白樺の林が映し出されている。風に揺れる白い幹と、葉の間からこぼれる柔らかな光。本物の森に迷い込んだような錯覚に陥るが、実際には暖かいラウンジのソファに深く腰掛けている。テーブルには北海道ならではの菓子が並んでいた。私たちは、ホテルメイドの繊細なデザートを一つ、二人で分け合うことにした。私は、少しだけ大人っぽく、洗練された様子でフォークを動かそうと意識した。けれど、運悪くクリームが一滴、ぽたっと袖口に落ちた。「あ」という声が出るよりも早く、君が小さく吹き出した。その笑い声は、静かなラウンジに心地よい波紋のように広がった。自分の不器用さが少しだけ恥ずかしかったけれど、同時に、言いようのない安心感に包まれた。完璧である必要なんてなかったのだ。ここでは、ただ不器用なままでいい。私たちは、お互いの欠けた部分を埋め合わせるのではなく、その欠けた部分があることを、静かに受け入れ合っている。そんな気がした。北海道の甘いお菓子が、口の中でゆっくりと溶けていく。その甘さは、少しだけ切なくて、けれどとても温かい。私たちは、もう一度、モニターの中の白樺林に目を向けた。光と影、静寂と音。私たちの関係も、きっとそんなふうに、不確定で、けれど確かなリズムを持っている。誰にも邪魔されない、この贅沢な余白の時間。私たちは、ただ、お互いの呼吸が重なるのを待っていた。もしかしたら、私たちはもう、同じリズムで呼吸をしていたのかもしれない。

窓の外では、夜の帳がゆっくりと降りてきていた。

  • 「オードリー」の朝食ビュッフェで、石窯で焼いたラム肉の香りに包まれる時間を
  • 十月の冷たい空気の中、大通公園の紅葉をゆっくりと歩いて巡る散歩を