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濡れた石段と、誰かの笑い声の残響

濡れた石段と、誰かの笑い声の残響

11月の風が、鼻の奥をツンとさせる。バスを降りた瞬間、誰かが「ここから石段街まで1分だって」と自信満々に豪語した。けれど、私たちは見事に反対方向へ3分間も行進した。冷たい空気に混ざって、誰かの笑い声が小さく跳ねている。冬の入り口の、少し湿った土の匂いが鼻をくすぐった。



焼きたての栗の香ばしい匂いが、しっとりとした空気に溶け込んで漂ってくる。熱すぎて口の中を火傷しそうになりながら、「誰が一番うまく食べられるか」というどうでもいい競争が始まった。ホクホクとした甘みが舌の上でほどけ、指先に残った砂糖のざらつきが心地いい。そんな小さな不便さが、旅の輪郭を鮮やかに縁取っていく。


ステイビューいかほ / Stay View Ikahoのエコノミールームのドアを開けた瞬間、誰かが「ここ、テトリスみたいに荷物を置かなきゃいけないな」と呟いた。狭いというより、心地よい密度。結果的に、全員が肩を寄せ合って古びた地図を広げることになった。この効率的な密着感に、私たちは顔を見合わせて笑った。


石段街を登りながら、「誰が一番先に息を切らすか」で賭けをした。結局、一番体力があるはずのあいつが、途中で気になった雑貨店に吸い込まれて脱落。作戦失敗だ。でも、あいつが買った奇妙な形のキーホルダーが、今では私たちの共通言語になっている。目的地に辿り着くことより、そんな寄り道にこそ価値があった。


紅葉が、深い血のような赤色に染まっている。風が吹くたびに、カサカサと乾いた葉が舞い、それが心地よいリズムを刻んでいた。隣にいる友人が、ふと黙った。言葉を交わさない時間が、全く気にならない。ただ、冷たい空気が肺の隅々まで満たしていく感覚だけがあった。静寂にも、温かい質があることを知った。


部屋に戻り、もこもこの靴下を脱いだ。フローリングのひんやりした温度が、足の裏からダイレクトに伝わってくる。ベッドまであと三歩。その短い距離に、一日中歩き回った心地よい疲労が凝縮されていた。パリッとした清潔なシーツに体を沈めたとき、ようやく深く、長い呼吸ができた。


夜、街に灯りがともり始めた。イルミネーションの光が、雨上がりの濡れた路面に反射して、まるで地面に星が散らばっているみたいだった。予想外のタイミングで上がった花火の音が、お腹の底までズシンと響く。その振動が、心地よい残響となって、私たちの間にゆっくりと、けれど確実に広がっていった。


貸切岩風呂「小春日和」から出た後の、あの思考が停止したぼーっとした感覚。肌がほんのりピンク色に染まり、湯上がりの冷たい空気が最高に贅沢な刺激になる。明日にはまたそれぞれの日常に戻るけれど、この肌に残る温度感だけは、しばらく消えない気がする。共有した記憶は、音の消え際のようにゆっくりと心に馴染んでいく。

靴に小さな石が入っていたけれど、そのまま歩いた。

  • 石段街の途中で、あえて地図を閉じて迷路のような路地を彷徨ってみて。
  • 湯上がりに、コンビニで買ったキンキンに冷えた飲み物を一気に飲み干して。