← 戻る 大江戸温泉物語Premium 伊香保

誰も知らない足音が残るロビー

到着10分でわかったこと

「誰が部屋予約したんだっけ?」

荷物を持った三人分の足音が、エントランスのカーペットを踏みしめる。カーペットは思ったより分厚く、足音が吸い込まれるように静まる。ロビーの時計は6時12分を指していた。ポップアップ画面に「大江戸温泉物語Premium 伊香保」の文字が光る。

「え、これって… UR都市機構の近くじゃない?」

友人の一人がスマホを覗き込む。

「いや、それより、エレベーターのボタンが汚い。これ、誰かが押したまま放置してる?」

誰も答えない。でも、その汚れたボタンが奇妙に落ち着く。まるでこのホテルが「後から来る人のために、ちょっとだけ待っている」と言っているみたいだった。

私たちは三人揃って、揃って遅刻した。電車の遅延情報を聞いてから慌てたのは事実だ。でも、6時15分の時点で、私たちにはすでに「この旅はどう転ぶかわからない」というわくわくがあった。


このホテルが教えてくれた4つのこと

空気と一緒に吸い込まれる足音
夜の9時、浴衣に着替えてロビーに戻ってきた時、カーペットの感触が昼と全然違った。足裏で温度が変わる。静寂が重さを持っているのを初めて感じた。誰かが階段を降りる音が、まるでホールに響く拍手のように聞こえた。これは「一人でいるのに、誰かに見られている感覚」に近かった。

バラの模様が描いた時間
バイキングのテーブルクロスには、バラの刺繍があった。友人が「写真撮ろう」と言った時、カメラのバッテリーが切れていた。でもその代わりに、私たちはテーブルクロスの上で指先を這わせ、バラの模様をなぞった。レースのような刺繍が、光の当たり方で模様を変えるのが面白かった。気がつけば、食事が終わった時にはテーブルクロスの模様が全部頭に入っていた。

温泉の蒸気が教えてくれたこと
大浴場の天井に張り付く蒸気は、窓ガラスの模様みたいに個性的だった。右側の蒸気は太い筋を描き、左側は細かく散った。友人が「これ、どっちが左の目でどっちが右の目?」と聞いた時、私たちは思わず笑った。でも、その模様が時間とともに変わっていくのを見ていると、温泉に入っている間も、外の世界も、同じ空気でつながっている気がした。

6時のロビーでわかった「待つことの価値」
6時にロビーのソファに座った時、誰もいなかった。エレベーターのドアが開く音だけが、時々響いた。コーヒーが手から少しずつ冷めていくのを感じながら、時計の秒針だけがカチカチと動くのを聞いた。友人は「これ、なんかありそうだよね」と言った。確かに、時間が止まっているわけじゃない。でも、止まっているように感じる瞬間が、たまに訪れる。


予定にはなかった最高の瞬間

「プラグ、持ってくるの忘れた!」

三人揃って自分の部屋に駆け込むと、友人の部屋のコンセントにスマホが3台並んで充電されていた。

「え、これって… つまり、誰かが持ってきたプラグをシェアしてる?」

誰も否定しなかった。

その後、温泉に入って汗を流し、バイキングで食べ過ぎたお腹を抱えて部屋に戻った。布団を敷くのを手伝ってくれた友人の手が、布団の端を押さえる瞬間が、なんだか不思議に温かかった。

「これって、グループ旅行ってこういうものかもな」

誰も反論しなかった。


誰もが足を踏み入れるその場所で、誰もが同じように足を止める。ロビーのカーペットが、時間が経つとともに、少しずつ柔らかくなっていく。そんな気がした。
  • 宇奈月温泉駅から5分の距離を、朝6時の空気を感じながら歩いてみる
  • バイキングで出てくる富山ブラックカレーを、友達と分け合って食べる