← 戻る シャトレーゼホテル 石和

浴衣の袖が長すぎて、歩くたびに床を掃いていた

浴衣の袖が長すぎて、歩くたびに床を掃いていた

甘い香りの迷宮へ、小さな冒険者が飛び込む

ロビーに足を踏み入れた瞬間、鼻腔をくすぐったのは、焼きたてのバターと砂糖が混ざり合った、濃密で甘い香りだった。それはまるで、空気そのものが繊細な砂糖菓子でできているかのような錯覚を覚えさせる。大人の私は「あぁ、シャトレーゼのホテルに来たな」と記号的に理解し、チェックインの手続きに意識を向けたが、隣にいた次男の反応は全く違った。彼は、まるで未知の惑星に降り立った探検家のような顔をしていた。彼にとってここは単なる宿泊施設ではなく、あらゆる壁や柱が甘いお菓子でできているかもしれない、巨大なケーキの王国なのだろう。

足元に広がる厚手の絨毯に深く沈み込むたび、彼は「ふわふわだ!」と歓声を上げる。その足音は小さく、けれど期待に満ちていた。ウェルカムスイーツが運ばれてきたとき、彼は椅子から転げ落ちそうになりながら、「全部食べていいの?」と、震える声で聞いてきた。その瞳に映っているのは、ホテルの格式やサービスの質といった大人の価値基準ではなく、目の前にある小さなケーキの鮮やかな色彩と、それが口の中でどう弾け、どんな幸福を運んでくるかということだけだ。彼がクリームを頬につけて、勝ち誇った顔で笑うとき、旅の目的なんて、実はこんな単純な快楽で十分なのではないかと思わされた。

黄金色の回転魔法と、秘密の通路の探索

次男が最も心を奪われたのは、ガラス越しに覗くバウムクーヘン工房だった。冷たいガラス一枚を隔てて、ゆっくりと、けれど確実に回転しながら焼き上げられていく黄金色の生地。彼はガラスに鼻をぴったりと押し付け、白い跡をつけながら、機械が刻む規則的な駆動音に耳を澄ませていた。層が幾重にも重なっていく様子を、「年輪みたいだね」と教えようとしたが、彼はそれを遮って「おっきなドーナツが回ってる!」と叫んだ。正解なんてどうでもいい。彼が世界をどう定義し、どう解釈するかが、その瞬間のすべてだった。

彼にとっての冒険は、そこからさらに広がった。廊下の角を曲がるたびに「ここには何があるんだろう」と目を輝かせ、誰に教わったわけでもない独自のルートでホテルを探索し始める。大人が効率的に最短距離で部屋に向かう一方で、彼はわざわざ遠回りをし、壁のざらりとした質感や、すれ違うスタッフの柔らかな微笑みを観察していた。彼が発見したのは、大人が見落とすような小さな隙間や、窓から差し込む光の屈折だった。そんな彼を追いかけて歩く時間は、正直に言ってかなり体力を消耗する。けれど、彼の視点に合わせて腰をかがめ、一緒に「不思議なもの」を探すとき、私の世界もまた、鮮やかなパレットのように色づいていった。彼が指差した、名もなき小さな装飾。それが彼にとっての宝物になるのなら、この不便な散歩も悪くないな、と心地よい疲れとともに思う。

静寂に溶ける時間、大人のための贅沢な余白

嵐のような時間が過ぎ、子供たちが和室8畳の布団の中で丸くなって、規則正しい寝息を立て始めた。昼間は彼らの格闘場のように狭く感じられた空間が、深夜になると、しんと静まり返った心地よい繭のような場所に変わる。私はそっと布団から抜け出し、裸足で畳を踏んだ。少しひんやりとした、けれどどこか懐かしいい草の匂い。指先に触れる畳のざらつきが、心地よく意識を覚醒させる。

そのまま、シャトレーゼホテル 石和の自慢である大浴場へ向かった。低張性の弱アルカリ性というお湯は、肌に触れた瞬間、しっとりと吸い付くような感覚がある。湯船に身を沈めると、昼間の喧騒が遠い記憶のように薄れていった。目を閉じると、耳の奥で子供たちの笑い声がリフレインしている。けれど、今の私に必要なのは、この圧倒的な静寂だった。お湯の温度がちょうどよく、凝り固まった肩の力がゆっくりとほどけていく。ふと目を開けると、露天風呂の向こうに、夜の闇に溶け込みかけた南アルプスの連峰が、静かに横たわっていた。4月の夜風はまだ少し冷たいけれど、それがかえって、お湯の温もりを際立たせてくれる。

部屋に戻ると、そこにはまだ、戦いの跡のような散らかったおもちゃたちが転がっていた。けれど、それを片付ける気になれなかった。この乱雑さこそが、私たちがここで過ごした時間の正体であり、家族というチームが全力で楽しんだ証拠なのだから。完璧な旅なんて、きっと退屈で仕方ない。浴衣の袖をひきずり、ケーキを頬張り、誰が一番に温泉に入れるかで言い争う。そんな「ぐちゃぐちゃ」な瞬間こそが、後になって一番鮮明に思い出す、旅の核心になる。私はこの混乱を愛しているのだと、子供たちの寝顔を眺めながら静かに確信した。

窓の外で、春の夜風が静かに木々を揺らしている。

  • お子様と一緒にバウムクーヘン工房を覗き、生地が重なる様子を「魔法」に見立てて観察してみてください。
  • お風呂上がりには、シャトレーゼならではのアイスを家族でシェアして、至福の甘い時間を過ごすのがおすすめです。