← 戻る 甲斐リゾートホテル

湯気の向こうで、誰かが笑いすぎている

指先が白くなるほどの冷気。2月の笛吹市は、空気が張り詰めていて、呼吸をするたびに肺の奥まで凍りつくような感覚がある。「本当にここ、日本なの?」と誰かが呟いた声が、白い息となって空に溶けていった。そんな中、甲斐リゾートホテルのロビーに足を踏み入れた瞬間、春のような温かい空気が肌にまとわりつき、強張っていた肩の力がふっと抜けた。空間には、誰かが持っていたお菓子の甘い香りと、畳の乾いた清々しい匂いが心地よく混じり合っている。

チェックインを待つ間、友人たちがいつもの調子で誰かの過去の失敗談を掘り起こし、静かなロビーに不釣り合いなほど大きな笑い声が響いた。貸出の浴衣に袖を通すと、生地の少しざらついた、けれど安心感のある感触が肌に伝わり、ここから始まる「何もしない時間」への期待が静かに膨らむ。私たちは、分刻みの完璧な旅を計画するよりも、その場の気分で迷走することに快感を覚えるタイプだ。だから、この場所で過ごす時間は、きっと心地よいズレに満ちたものになるだろうという予感に、胸が高鳴った。

冬の笛吹市で挑んだ「正解のない4つの実験」

  • バイキングでの『全メニュー制覇』作戦: 地元の旬の素材が色鮮やかに並ぶ光景に、私たちは戦意を燃やした。湯気を立てる料理をプレートに山盛りにして、誰が一番効率よく攻略できるか競い合ったが、結果として全員が中盤で胃袋の限界を迎え、食後の散歩が「胃腸の浄化」という名の苦行に変わった。けれど、口いっぱいに広がった瑞々しいフルーツの甘さと、出来立ての料理がもたらす充足感だけは、紛れもない本物だった。
  • 庭の原木ベンチで耐寒限界テスト: ログハウスに囲まれた静謐な庭園に、あえて厚手のコートを脱ぎ捨てて飛び出した。冷え切った木のベンチに腰を下ろした瞬間、お尻から体温が猛スピードで奪われる絶望感に襲われ、全員が同時に「やっぱり中に入ろう」と合意して脱兎のごとくロビーへ逃げ帰った。あの30秒間の凍えるような寒さと、その後の室内のぬくもりの対比は、冬の旅にしかできない贅沢な遊びだったと思う。
  • 桔梗屋工場への冬風全力疾走: ホテルから徒歩圏内という言葉を信じて出発したが、冬の風は予想以上に強く、歩くというよりは見えない壁に押し戻されながら進む形になった。ようやく辿り着いた工場で、信玄餅のもっちりとした食感と黒蜜の濃厚な甘さが口いっぱいに広がったとき、道中の寒さなんてどうでもよくなった。結局、予定より多すぎる量のお菓子を買い込んでしまったけれど、それがこの旅の正解だった。
  • 源泉かけ流しの湯での『真面目な人生相談』: 南アルプスの眺望を背に、たっぷりとしたお湯に身を任せ、静寂の中で深い話をしようと試みた。けれど、誰かがお湯に潜って変な音を出したせいで、しんみりした空気は一瞬で崩壊。結局、いつものくだらない言い合いに戻り、白い湯気の中で大笑いしていた。真面目な話をするよりも、ただ一緒に笑い合える関係であることに、改めて気づかされた瞬間だった。

旅の記憶スコアボード

結局、一番価値があったのは、圧倒的な量の料理に囲まれて「美味しいね」と笑い合った時間だ。ベンチでの失敗は最高のネタになり、人生相談の失敗は私たちの距離がちょうどいいことを教えてくれた。甲斐リゾートホテルという大きな毛布にくるまれているような安心感の中で、計画を捨てることで、私たちは一番欲しかった「心の緩み」を手に入れたのだ。

湯気に包まれた友人の横顔が、冬の陽だまりのように柔らかく見えた。

  • バイキングで「誰が一番不格好に盛り付けるか」を競い合ってみてほしい。
  • 露天風呂から上がった後、冷たい空気の中で温かい飲み物を飲み、5分間だけ沈黙を楽しむこと。