← 戻る SAKURA定山渓 膳 (サクラジョウザンケイ ゼン) (SAKURA JYOZANKEI ZEN)

午前2時の電子レンジと、誰のせいでもない静寂

誰が言い出したかさえ、心地よい空白に消えて

指先に食い込むコンビニのビニール袋の感触が、心地よい痛みとなって意識を覚醒させる。五月の定山渓は、夜になると空気が急に密度を増し、しっとりと肌にまとわりつく。湿り気を帯びた土の匂いと、どこか遠くで夜風に揺れている藤の花の甘い香りが混ざり合い、肺の奥まで深く満たしていく。私たちは、あえて効率の悪い路地を抜け、街の灯りを眺めながら、結局誰の提案だったかも分からないまま、大量のジャンクフードを買い込んだ。SAKURA定山渓 膳に到着し、入り口のタブレット端末で非接触チェックインを済ませたとき、指先に触れたガラスの冷たさに、ふと「ここからは、私たちだけの時間だ」という強烈な解放感が走った。一棟貸切という贅沢な別荘のような空間に、コンビニの揚げ物や派手な色のポテトチップスを持ち込むという、ある種の不協和音。けれど、完璧に整えられた静謐な空間に、自分たちの「適当さ」を塗りつけていく作業こそが、この旅の本当の始まりだったのかもしれない。

贅沢な静寂を塗りつぶす、ジャンクな笑い声

「ねえ、なんでわざわざこの激辛のやつ買ったの? 君、辛いの苦手なくせに」

リビングの広いソファに深く沈み込みながら、誰かが呆れたように笑った。キッチンからは、レンジで温め直した唐揚げの、少しだけ油っぽい香ばしい匂いが漂い、モダンで洗練された空間に、心地よい生活臭が溶け込んでいく。

「パッケージがかっこよかったから。旅くらい、背伸びして挑戦したいでしょ」

「挑戦の方向性が完全に間違ってる。結果的に、今隣で水をガブガブ飲んでるし」

私たちは笑いながら、互いの選択のセンスを軽くいじり合った。誰が一番「変なもの」を買ったかという、大人のすることとは思えないくだらない賭け。けれど、そんな会話を交わしているときの空気感は、まるで気圧がゆっくりと下がって、心地よい眠気が降りてくる直前のあの感覚に似ている。豪華な設備が整ったキッチンで、プラスチックの容器に入った食事を囲む。本来なら不釣り合いなはずなのに、不思議とそれが一番「私たちらしい」と感じられた。

「っていうか、この部屋、広すぎて自分の咳が反響するね」

「それ、ただの声が大きいだけじゃない?」

「ひどいな。でも、まあいいか。この静けさがあるから、くだらない話が全部正解に聞こえる気がするし」

誰かがそう言って、最後の一つになったコロッケを奪い合った。口の中に広がる強い塩気と、少しだけ不健康な満足感。それは、計画通りに進む観光ルートよりもずっと、記憶に深く刻まれる濃密な味だった。

満たされた胃袋と、夜の森が連れてきた静寂

食事が終わり、ゴミをまとめて片付けると、部屋に再び深い静寂が戻ってきた。けれど、それはチェックインした直後の、どこか緊張感のある静けさとは違う。湿度を増した夜の空気が、私たちの間に心地よい膜を張ったような、そんな親密な感覚。窓の外では新緑の葉が夜風に揺れ、かすかに擦れ合う囁きのような音が聞こえてくる。誰一人として、明日何をすべきか、どこへ行くべきかという正解を求めようとはしなかった。ただ、ダブルベッドのシーツの滑らかな質感に身を任せ、高い天井を見つめる。もしかしたら、旅の本当の目的は、美しい景色を消費することではなく、こういう「何もない時間」を共有することだったのかもしれない。もともと私たちは、孤独という臓器を持って生まれてきたけれど、隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っていると感じられるとき、その孤独は心地よい重みに変わる。SAKURA定山渓 膳の静寂は、何かを埋めるためのものではなく、ただそこにある空白を愛するための場所だった。明日になればまた、誰かの期待に応える自分に戻るけれど、今この瞬間だけは、ただのお腹いっぱいで眠い人間でいい。その絶対的な安心感が、何よりも贅沢に感じられた。

窓の外で、夜の森が深く、静かに呼吸をしていた。

  • 地元のコンビニで売っている、北海道限定の濃厚なバター味のポテトチップス
  • 定山渓の夜風に当たりながら頬張る、温かい肉まんかおでん