← 戻る 奥定山渓温泉 佳松御苑 (カショウギョエン)

窓の結露が、ゆっくりと重なり合うとき

窓の結露が、ゆっくりと重なり合うとき

同じ瞬間、ふたつの視線

指先に触れたナラ材の滑らかな質感と、どこか懐かしい木の香りが鼻をくすぐった。奥定山渓温泉 佳松御苑の部屋に足を踏み入れたとき、まず感じたのは、外の凍てつく空気とは対照的な、しっとりとした温もりだった。もこもことした浴衣に袖を通すと、生地の重みが心地よく肩にのしかかる。照明はあえて落とされており、札幌軟石の壁が淡い陰影を作っていた。隣にいる君が何を考えているのかはわからないけれど、ただ、この静かな空間に二人で溶け込んでいきたいという気がした。視界の端で、君がゆっくりと窓の方へ歩いていく。その背中を見ながら、私はただ、この心地よい沈黙がずっと続けばいいと願っていた。


重い扉が開いた瞬間、森の深い静寂が音もなく流れ込んできた。部屋の中は温かいけれど、大きな窓の向こうに広がる12月の景色は、鋭い冷たさを湛えている。窓ガラスにそっと指を触れると、氷のような冷たさが指先に伝わり、そこから体温がゆっくりと奪われていく感覚があった。ふと振り返ると、君が少し照れくさそうに浴衣を整えている。その不器用な仕草を見て、なんだか安心した。私たちはこれまで、お互いの歩幅を合わせるのに随分と時間がかかったけれど、ここにある静けさは、無理に言葉を重ねなくてもいいことを教えてくれているように感じた。外では雪が降り始めていて、世界がゆっくりと白に塗りつぶされていくのが見えた。

ふたりで気づいたこと

森の展望風呂に浸かっているとき、私たちは同時に、窓ガラスに付いた小さな水滴に目を奪われた。熱い湯気で白く曇ったガラスに、小さな雫がひとつ、またひとつと生まれていく。それはまるで、別々の場所から流れてきた記憶が、ゆっくりと時間をかけて集まっているみたいだった。ある雫が別の雫に触れた瞬間、表面張力がふっと消えて、二つの粒がひとつに溶け合う。その様子を眺めているうちに、私たちの間にある距離も、この水滴のように自然に消えていくのかもしれない、と感じた。お湯の温度はちょうどよく、肌を包み込む感覚が、凝り固まっていた心をゆっくりと解いていく。外の森は凍りついているのに、ここだけは体温が心地よく循環している。そんな対比が、かえって隣にいる人の存在を鮮明にしてくれた。

夕食にいただいた白老牛のフィレ肉は、口の中でほどけるような柔らかさで、赤ワインの深い香りと一緒に、体の中にじんわりと熱を灯してくれた。料理の一皿一皿が、北海道の冬の風景を切り取ったかのような繊細さで、私たちは言葉を失い、ただ味わうことに集中した。食後、部屋に戻ってスランバーランドのベッドに身を投げ出したとき、あまりにも心地よい沈み込みに、二人で小さく笑い合った。特に、用意されていたパジャマが二人にとって少し大きすぎたせいで、まるで大きなマシュマロになったみたいに見えたのは、この旅のなかで一番、不意に訪れた幸福な瞬間だったのかもしれない。誰に褒められるわけでもない、ただ二人だけの小さな笑い。そんな断片的な記憶が、この場所での時間を、かけがえのないものに変えていく。私たちはまだ、お互いのことをすべて知っているわけではない。けれど、この静かな森の中で、同じ温度の空気を吸っていることだけで、十分な気がした。


冷え切った指先を、温かい手のひらで包み込んだときの、あの確かな体温。
  • 12月の夜は、ぜひお部屋のBluetoothスピーカーで、ふたりだけが知っている静かな曲を流してほしい。
  • 朝食の和食膳を終えた後、少しだけ早起きして、誰もいない庭園の冷たい空気を吸い込んでみることをおすすめする。