← 戻る 定山渓万世閣ホテルミリオーネ

ぬるいお茶と、子供たちの笑い声が混ざる場所

ぬるいお茶と、子供たちの笑い声が混ざる場所

07:30、地下1階の賑やかな食卓

鼻をくすぐるのは、香ばしく焼きたてのパンと、どこか懐かしく心を落ち着かせる出汁の香り。定山渓万世閣ホテルミリオーネのビュッフェレストランに足を踏み入れると、石畳を模した床が足裏に心地よい硬さを伝え、温もりある木のテーブルが空間に柔らかい温度を添えている。ここは、家族という小さなチームにとっての「作戦会議室」のような場所だ。

「ねえ見て、こっちの牛乳、すごく濃厚だよ!」と上の子が目を輝かせて教えてくれた。北海道産のミルクは、口の中でとろりと重く、濃厚な甘みが広がっていく。一方の下の子は、自分の皿に盛りすぎた色とりどりのフルーツをどう運ぶか、頬を膨らませて真剣な顔で格闘している。大人の私は、その賑やかな喧騒を心地よいBGMに、ゆっくりと深いコクのあるコーヒーを啜る。子供たちが食べ物をこぼし、お互いに言い争い、そして誰かがふっと笑い出す。その不規則なリズムは、まるで冬の凍土を突き破って、無理やり外に出ようとする小さな蕾の振動に似ている。滑らかではないけれど、そこには確かな生命力が宿っている。完璧なマナーなんて、この幸福な空間には必要ないのかもしれない。

14:00、静寂が降り積もる展望風呂付洋室

外を歩き回り、冷たい春風にさらされた後の部屋は、驚くほど静かだ。ドアを閉めた瞬間、外の世界の喧騒がふっと消え、代わりにエアコンの低いハム音が耳に届く。足元の絨毯は厚く、歩くたびに足首まで優しく飲み込まれそうになる。その柔らかさに、一日中張り詰めていた肩の力がふっと抜けていくのがわかった。「ああ、やっと静寂が戻ってきた」と、心の中で小さく呟く。

子供たちは、部屋に入った途端に電池が切れたように、ふかふかのベッドの上にダイブした。もふもふとしたリネンの質感に顔を埋めて、深い呼吸を繰り返している。私は、窓の外に広がる定山渓の山々を眺めていた。4月の山は、まだ冬の名残があるけれど、よく見ると枝先に小さな、本当に小さな緑が滲んでいる。それは、無理に咲こうとするのではなく、ただそこに在ることを許されているような、静かな佇まいだ。家族旅行というものは、予定通りにいかないことの連続で、時々、誰かが不機嫌になる。けれど、この静かな部屋で、互いの穏やかな寝息を聞いているとき、その摩擦さえも、心地よい記憶の層になって積み重なっていくという気がする。

19:00、湯気と冷気の境界線で

浴室の扉を開けると、濃い硫黄の香りと、視界を遮るほどの真っ白な湯気が波のように押し寄せてきた。熱いお湯に体を沈めた瞬間、皮膚の表面で冷たい空気が弾け、内側からじわりと熱が広がっていく。展望風呂から見える渓谷の景色は、深い藍色に染まり始めていた。

「見て!あそこに魚がいる!」と下の子が大声を上げた。慌てて覗き込むと、そこにあったのは魚ではなく、ただの水面の揺らぎと、自分の小さな足の指だった。その拍子に、上の子が「もう、全然違うよ!」と笑いながら、いたずらっぽく水を跳ね上げる。大浴場という公共の空間で、彼らは自由な野生の生き物に戻る。大人の私は、ただお湯の温度に身を任せ、自分の体の輪郭がぼやけていく感覚を楽しんでいた。温かい湯と、外気浴テラスで触れる凛とした冷たい風。その激しい温度差に身を置いていると、心の中にあった小さな凝りが、ゆっくりと解けていくのがわかる。それは、固く閉じていた蕾が、雨と光を受けて、ゆっくりと外側へ向かってひらく瞬間の、あの心地よい緊張感に似ているのかもしれない。

22:00、深い眠りと大人の時間

子供たちが、浴衣をマントのように羽織って部屋中を走り回った末に、ようやく深い眠りに落ちた。部屋には、かすかなお茶の香りと、心地よい沈黙だけが残っている。私たちは、サイドテーブルに置いたぬるいお茶を飲みながら、今日あった「想定外」のことを静かに話し合った。上の子が道端で見つけた不思議な形の石の話や、下の子が温泉で言い間違えたおかしな言葉。そういう、旅のしおりには絶対に載らない、どうでもいい断片こそが、実は一番大切だったりする。「こういう時間があるから、旅はやめられないね」と、パートナーと視線を交わす。

ベッドに入ると、掛け布団の適度な重みが、一日中走り回った体を優しく押さえつけてくれる。明日になれば、また子供たちは目を覚まし、賑やかな喧騒が始まるだろう。けれど、今のこの静寂は、明日への準備のような時間だ。私たちは、互いに言葉を交わさなくても、同じリズムで呼吸をしている。家族という関係は、時に不自由で、時に騒がしいけれど、こうして同じ場所で同じ温度を感じられることは、何よりも贅沢なことなのだと思う。窓の外では、定山渓の夜風が木々を揺らし、遠くで川のせせらぎが聞こえる。その音が、心地よい子守唄のように、私たちを深い眠りへと誘っていった。

明日の朝、またあの濃厚なミルクを飲んで、私たちは不器用な旅を続けよう。

  • 札幌駅からの送迎バスを利用して、移動のストレスを最小限に。赤いジャンパーのスタッフさんが温かく迎えてくれます。
  • ビュッフェレストランでは、ぜひ北海道産の濃厚なミルクを。子供たちが夢中になる味は、大人の心も解きほぐしてくれます。