← 戻る ホテルマイステイズ富士山 展望温泉

山の色と、コンビニの唐揚げ

山の色と、コンビニの唐揚げ

誰が夜食の誘惑に負けたのか

指先に触れる三月の空気は、薄い氷の膜を張っているかのように鋭く冷たかった。ホテルマイステイズ富士山 展望温泉の展望大浴場で心身を解きほぐし、肌にわずかに残る硫黄の香りと湯上がりの火照りを抱えたままロビーを出た瞬間、肺の奥まで凍りつくような感覚に襲われ、私たちは同時に肩をすくめた。誰が言い出したのかはもう定かではない。けれど、私たちは「深夜のコンビニ・ミッション」という、大人の旅にしてはあまりに稚拙で、だからこそ抗いがたい計画に合意した。夜の静寂を切り裂くように歩く道すがら、私たちは賭けをした。誰が財布を部屋に忘れてきて、誰が肩代わりすることになるか。その小さな期待感だけが、冷え切った夜道を歩く私たちの唯一の燃料だった。コンビニの自動ドアが開いた瞬間、人工的な温かさと揚げ物の芳醇な匂いが混ざり合った空気が押し寄せ、私たちは戦利品を求める子供のように、地域の限定菓子や黄金色に輝く唐揚げをカゴに放り込んだ。ビニールの袋が指に食い込む感触さえ、心地よい高揚感に変わり、夜の闇が心地よい緊張感となって私たちを包んでいた。

揚げ物の香りと、とりとめない本音

「ねえ、桜の開花予想見た? ぶっちゃけ、今ここに来てもまだ早すぎる気がしない?」

部屋に戻り、ベッドの上にコンビニ袋をぶちまけると、パリパリという安っぽいけれど心地よい音が洋風の客室に響き渡った。私たちは、ホテルの真っ白なシーツの上に遠慮なく揚げ物の油を落としながら、誰が一番に「やっぱり寒すぎる」と口にするかを競っていた。

「いいじゃん、期待して待つのも旅の醍醐味でしょ。っていうか、見てよこの髪。リファのドライヤー使ったら、人生で一番ツヤツヤになった気がする。中身はボロボロなのに、外見だけは完璧っていう、このギャップが最高じゃない?」

誰かが笑い出し、それに合わせて私も口角を上げた。高級なドライヤーで整えられた髪と、口いっぱいに詰め込んだコンビニの唐揚げ。この不調和こそが、私たちの旅の正体なのだと思う。私たちは、お互いの格好悪さを笑い合い、誰が一番情けないルートでホテルまで歩いたかを言い合った。

「ていうか、さっきの展望露天風呂、富士山が半分くらい雲に隠れてたよね。あれ、絶対私たちを試してたと思うよ」

「考えすぎ。ただの天気でしょ」

そんな風に、正解のない会話を積み上げていく。もしかしたら、私たちは何か深い答えを探していたのかもしれないけれど、実際には、ただ目の前のポテトチップスの塩気が、冷えた心に心地よく染み渡っていただけなのだ。揚げ物の熱さと、冷たい夜風の記憶が交互に押し寄せ、私たちの心の距離を少しずつ、けれど確実に縮めていた。

満腹のあとに訪れる、深い静寂

最後の一片まで食べ尽くし、部屋には空になったパッケージと、わずかに残った油の匂いだけが漂っていた。賑やかだった会話が、潮が引くようにゆっくりと消えていく。私たちは、どちらからともなく窓の外に目を向けた。そこには、闇に溶け込みながらも、圧倒的な質量を持って鎮座する富士山のシルエットがあった。先ほどまであんなに騒いでいたのが不思議に思えるほど、部屋の中は急に静かになった。でも、それは寂しい静寂ではなく、心地よい飽和状態のような静けさだった。裸足で踏んだカーペットの柔らかさと、遠くで聞こえる誰かの足音。私たちは、自分たちがこの場所に、ありのままの姿で受け入れられているという感覚に包まれていた。もしかすると、旅の本当の目的は、有名な景色を見ることではなく、こうして誰かと一緒に「何もない時間」を共有することだったのかもしれない。透明なビニールの膜に包まれていたコンビニのお菓子のように、私たちの関係も、この旅という一時的なパッケージの中でだけ、特別に脆くて、だからこそ愛おしいものになっていた。富士山の静かな威圧感が、かえって私たちの小さな連帯感を強めていた。

カーテンの隙間から差し込む月光が、枕元の空き袋を静かに照らしていた。

  • 静岡限定の「ご当地ポテトチップス」を、あえて一番高いやつで買い込むこと
  • 地元のコンビニでしか売っていない、少し甘すぎる静岡産のお茶スイーツをシェアすること