← 戻る ANAクラウンプラザホテル神戸

パジャマの袖に残った、タコスの匂い

春の記憶を刻む、五つの音色

キュッ、キュッ。磨き上げられた廊下の冷たい大理石と、次男のゴム底の靴が喧嘩をする音。静寂がルールであるはずの14階以上の客室階に、小さな足音が軽快なリズムを刻んでいく。整えられたホテルの秩序を、子供という名の好奇心が内側から突き破って芽吹く、そんな生命力に満ちた瞬間だった。

パリッ。タコスシェルが心地よく砕ける音。ANAクラウンプラザホテル神戸のレストランで、色鮮やかなテックスメックスのブッフェを囲んでいる。夫が「少し辛いな」と苦笑いしながらも、また一口頬張る。口の周りにソースがついているけれど、大人が気にする「作法」なんて、刺激的なスパイスの香りに紛れてどこかへ消えてしまった。

ゴーッ。遠くで街が呼吸しているような、低い風の音。早朝7時、まだ子供たちが夢の中にある間に、パノラマビューの窓辺に立った。神戸の街並みと大阪湾が、淡い青色のフィルター越しに静かに広がっている。高い場所にあるということは、孤独になることではなく、世界を少しだけ客観的に、そして慈しむように眺められるということなのだろう。

ガタガタ。ロープウェイが空を登る、機械的な振動音。神戸布引ハーブ園へ向かう途中、娘の目が期待に大きく見開かれていた。「見て!桜が飛んでる!」という歓声が、4月の柔らかな風とハーブの香りに溶けていく。花びらが記憶の断片のように舞い降りる景色の中で、正解のない問いを投げかける子供の純粋さが、私の心を解きほぐしていった。

ジジジッ。パンパンに詰まったスーツケースのファスナーが、限界まで悲鳴を上げている音。最後の一押しでようやく閉まったとき、戦いのようなパッキングが終わった奇妙な達成感が訪れた。次男がホテルのバスローブをマントのように羽織り、「出発だ!」と叫んで裾を床に引きずっている。その不格好で愛おしい姿に、家族全員がふっと吹き出した。

散らかった荷物と、絶え間ない笑い声。それこそが、この旅で得た一番贅沢な景色だった。

  • 14階以上の客室から、朝一番に街の輪郭を眺めてほしい。澄んだ空気が思考を整理してくれる。
  • テックスメックスのブッフェでは、作法を忘れて子供と一緒にタコスを頬張る時間を。