神戸の秋を彩る、家族の記憶に刻まれた五つの音
「ガタン!」という、重いプラスチックが床を叩く鈍い音。ホテルヴィラフォンテーヌ神戸三宮の英国調のロビーに響き渡ったのは、下の子が巨大チェスの駒をなぎ倒した瞬間だった。静謐な空間を切り裂く子供の無邪気な好奇心が、大人のための境界線を心地よく解きほぐし、旅の始まりを告げる賑やかなリズムへと変えていく。
「サクッ」という、耳の奥まで心地よい生地の裂ける音。上の子が独占していたル・パン神戸北野の塩パンを、指先にバターの熱を感じながら分かち合う。黄金色の朝陽が差し込むテーブルで、誰がいくつ食べたかという些細な言い争いに時間を費やす。そんなとりとめもない時間が、家族にとっては何よりの贅沢な朝の儀式だった。
「ズン、ズン」と低く震えるダブルベースの音。ホテルヴィラフォンテーヌ神戸三宮のラウンジに流れるジャズの深い周波数が、ベルベットの椅子に身を沈めた身体の芯まで染み込んでいく。隣り合うパートナーと視線を交わし、「なんとか午前中を乗り切ったね」と心の中で合意する。大人の静寂と子供の喧騒が不思議な調和で共存する、心地よい温度の休息。
「パシャッ」という、温かい水が跳ねる音。温泉の白い湯気に包まれ、視界がぼやける中で下の子が「あ!魚がいる!」と歓声を上げた。覗き込めばそこにあったのは本人の小さな足の指で、弾けるような笑い声がタイルの壁に反響し、張り詰めていた肩の力がふいに抜けていく。お湯の温度に身を任せ、心までゆっくりと溶けていく感覚。
「シャリ、シャリ」と、乾いた葉が擦れ合う音。ホテルを出てメリケンパークへ向かう道すがら、秋の気配を孕んだ風がススキを揺らしていた。9月の風は、夏を押し出し秋を招く静かな手のように私たちの頬を撫で、特別な目的地のない散歩を、十分すぎるほど満たされた時間へと変えてくれた。
真っ白なシーツの海に、子供たちの小さな寝息が静かに溶けていく。
- ル・パン神戸北野の塩パンを、ぜひ焼きたての状態で味わってみてほしい。
- 夕暮れ時にメリケンパークまでゆっくり歩き、神戸の心地よい海風に触れる時間を。