足の裏に残る布団のぬくもり
足の裏が布団の端に触れた瞬間、さらりとした麻の織り目が指先に絡みつく。表面は乾いた風を纏っていて、中に潜り込むと体温がじんわりと湿り気を呼び戻す。まるで、長い間草津の湯畑の湯煙に包まれていた布が、揉みほぐされたように柔らかくなったみたいだ。その厚みが身体を包むというより、優しく押し返してくるような重みだった。部屋の空気は白根山からの冷気が滑り込むほどに澄んでいて、湯気の匂いがほんのりと残っていた。汗を流した後の肌が布団の織り目に引っかかる感覚が、不思議と落ち着く。
「この布団、どっちに敷く?」
「ねえ、布団ってどっちに敷くの?」
「んー、伝統的な感じだと、向こう側かな?」
「でも、窓側の方が景色いいんじゃない?草津の街灯が揺らめくのが見えるっていうか」
そう言うと、あなたが私の足を布団の上にそっと置いた。
「繰り返されるように、この重み」
「繰り返されるってどういう意味?」
「ほら、イタリア語で nuovamente──。繰り返されるみたいなニュアンス」
私たちは布団の上で足の位置を探り合いながら、草津の夜祭りの笛の音が遠くから聞こえてくるのを聞いていた。
あの布団が象徴していたもの
チェックアウトの朝、布団を畳む指先に残った布の重みが、不思議と心に沁みた。
あの布団は、単に寝るためのものではなかった。
誰かと一緒に寝るということは、こんなにも具体的な作業だったのかと気づかされた。
足の裏で感じた重みは、草津温泉の底で感じる「底」のようなものだった。体が沈んでいく感覚と、同時に押し返してくる感覚。
あの夜、布団の上であなたの足が触れた場所は、そのまま私たちの、これからの距離感を決めたのかもしれない。
あの布団の上で、私たちは初めて「一緒にいる」ということを、具体的に知った。
布団のぬくもりが、二人の間に流れる時間の重さを教えてくれた。
- 亀の井ホテル 草津湯畑の露天風呂で、月の光を浴びながら入浴する
- 9月の夜祭りの笛の音を聞きながら、温泉の湯気で白くなった窓辺で温かい飲み物を飲む
- 草津湯畑の歩道橋から見える、秋の月と湯気の織りなす景色を二人で眺める