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布団を敷く音が、一人一人違う季節

布団を敷く音が、一人一人違う季節

見たもの:提灯の明かりが揺れる中で

真夏の草津の夜、提灯の明かりが湯畑の方から漂ってくる。佳乃やの窓からは、その光が三角形の形で玄関前の石畳を照らしていた。子供たちは布団を敷く音を聞き逃すまいと、耳を澄ませている。布団の厚みが目に見えるわけじゃないのに、その分厚さが「今日も一日が終わったんだな」と教えてくれる。ステンドグラス越しの光は、木目の模様に青と茶色の縞を描いている。その模様が、まるで家族それぞれの顔の輪郭のように見えた。

聞こえたもの:足音が消える廊下

子供の足音が廊下のカーペットに吸い込まれてゆく。カーペットは厚く、子供の体重を支えるというより、包み込むように沈む。夜更け、盆踊りの太鼓が遠くで聞こえる。リズムは一定じゃなく、時々加速する。それもそのはず、踊り手の誰かが転んでしまったのかもしれない。温泉の湯気が壁を這う音が、静寂に混じって聞こえる。あの湯気の正体は、45℃を超える源泉かけ流しの熱さだ。汗ばむ肌が、その熱でじんわりと癒される。

触れたもの:布団の重みと温泉の熱さ

布団に手を入れた瞬間、厚みが手の平を包む。中学生の長男は布団を軽く蹴って「これ、あったかい」とつぶやく。幼稚園の次男は布団を顔まで引っ張って「寝るのやだ」と駄々をこねる。布団の重みは、家族それぞれの「今日一日」の重さを表しているようだ。温泉に足をつけると、熱さが一気に伝わってくる。最初は「熱い!」と叫ぶ子供たちも、そのうち「気持ちいい」と言うようになる。温泉の熱は、8月の草津の暑さを一瞬で忘れさせてくれる。

味わったもの:ソバとかき氷の舌触り

夕食のソバは、冷たさと温かさが同時に口に広がる。麺は締まっていて、つゆはあっさりとしていて、ちょうどいい塩加減だった。子供たちは「辛い!」と文句を言うが、次第にソバをすする音だけが聞こえるようになる。その隣で、かき氷の甘さが舌を刺激する。氷の粒が歯の表面で弾ける感触は、夏の終わりを告げる儀式のようだ。氷の冷たさが、汗ばむ額を冷ましてくれる。

匂い:硫黄と夜の空気

温泉の硫黄の匂いは、草津の夏の匂いそのものだ。でも佳乃やのロビーに入った瞬間、その匂いがほんの少しだけ違う。ステンドグラスから差し込む光が、木の匂いと混じって独特の香りを作り出している。ロビーのソファに座ると、硫黄の匂いと同時に、埃っぽい木の匂いが鼻をくすぐる。その匂いは、この場所が「今ここにある」ということを教えてくれる。夜の空気は、汗ばむ肌を冷やす一方で、温泉の熱がじわじわと体を温める。
温泉の熱が引いて、布団の温もりがまだ残る朝。カーテンを開けると、提灯の明かりは消えていた。代わりに、朝日がステンドグラスを通して色鮮やかな模様を床に描いている。
  • 佳乃や (25分徒歩)湯畑までの道のりで、地元のおばあちゃんが売る飴細工を買って帰る
  • 盆踊りの会場で、子供たちに浴衣の帯の結び方を教えてもらう