桜の季節、草津温泉喜びの宿 高松の前を通る細い道は、カーナビが忽然「道幅が狭まります」と警告を発した。慌ててUターンしたが、後続車のクラクションが追い打ちをかけた。その先に現れた玄関の灯りが、ようやく安堵を与えてくれた。
玄関前の桜並木は、ちょうど散り始めたばかりで、白い花びらが風に乗って玄関マットの上に小さな島を描いていた。中に入ると、木の香りと湿った空気が混じり、桜の甘い香りが鼻腔をくすぐった。
朝食会場の喜楽亭で、白粥に漬物が添えられていた。熱々の粥を箸で押さえると、湯気が立ち上り、隣の人が「これ、美味しい?」と尋ねてきた。スプーンで半分すくって差し出すと、驚いた表情で口に運び、次の瞬間、目が丸くなった。
宴会場のカラオケコーナーで、ダーツを投げた。点数など気にせず、的に当たった回数だけビールを飲むルールに変えた。三人とも酔いが回り、最後は「草津の名物踊りショーを見に行こう!」と大声で叫んだ。
客室の「珠玉」に戻ると、半露天風呂から湯気が立ち上っていた。桧の木の湯に浸かり、外を眺めると、桜の花びらが風に揺られて湯面にぽたぽたと落ちていた。誰もいないはずなのに、その贅沢な光景に思わず息を呑んだ。
翌朝、西の河原露天風呂へ向かう道中、桜並木の下を歩いていると、足元で花びらが踊っていた。見上げれば、桜の木が幹から震え、強い風に乗って花びらが一気に散り、まるで雪が降るようだった。
部屋に戻ると、桧の木の香りがまだ残っていた。枕元に置かれたお手製の温泉まんじゅうは、小麦粉の甘さと黒蜜のコクが口いっぱいに広がった。誰かが「これ、家に持って帰りたい」とつぶやいたが、結局全部食べてしまった。
最後の夜、玄関前の桜の木の下で、三人で缶チューハイを飲んだ。桜の花びらが一枚、誰かの肩に乗り、風が吹くと空中でくるりと回って地面に落ちた。
桜の花びらが手のひらに一枚残る。
草津温泉喜びの宿 高松の玄関前の桜並木を、裸足で歩いてみよう。
- 部屋の半露天風呂で、桜の花びらが風に乗ってくるのを待つ。