← 戻る 采莓ホテル

琥珀色の街並みと、遠い記憶の輪郭

指先に触れるカーテンの生地が、少しだけざらついていた。窓をわずかに開けると、九月の苗栗の空気が、冷やされたガラスのように鋭く、けれど心地よく肺を満たしていく。そこには、熟した果実と湿った土が混じり合った、この土地特有の甘く濃密な香りが漂っていた。采莓行館Caimei Hotelの八階から見下ろす大湖の街は、まるで誰かが丁寧に並べた精巧なミニチュアの模型のようだった。パッチワークのように広がる畑の緑が、午後の蜂蜜色の光に焼かれて、ゆっくりと深い群青色に沈んでいく。遠くの丘の稜線が、淡い水色の霞に溶け込んでいく様子を眺めていると、自分という存在までもが透明な風景の一部になり、どこまでも薄くなっていくような心地がした。隣にいるあなたの肩が、時折、私の腕に触れる。そのわずかな接触だけが、この広大な静寂の中で唯一、私を現実につなぎとめている錨のように感じられた。私たちは何も話さなかったけれど、流れる雲の緩やかな速さが、今の私たちの心地よいリズムにちょうど合っていたのかもしれない。

窓ガラスに映る自分の輪郭が、外の景色と重なって、うまく切り離せない。隣に立つあなたの呼吸の音が、静まり返った部屋の中で、小さなメトロノームのように規則正しく、けれどどこか切なく響いている。視線を落とすと、足元のタイルの冷たさが、素足を通じてじわりと体温を奪っていくのがわかった。外に広がるパノラマよりも、私はあなたの横顔に落ちる影の深さや、まつ毛のわずかな震えの方に意識が向いていた。時折、あなたが小さく息を吐くたびに、二人の間の空白がわずかに震え、形を変える。この静寂は、決して空っぽなものではなく、言葉にできないほどの濃密な感情で満たされているという気がした。街の明かりが一つ、また一つと灯り始めるけれど、私にとっての世界は、この四角い部屋と、そこに漂うあなたの香水の残り香だけの、とても狭くて親密な場所に凝縮されていた。外の世界がどれほど広くても、今の私にはこの数センチの距離こそが、すべてだった。

重なり合う体温と、不格好な笑い声

夜、新しい浴槽で心身を解きほぐした後、私たちは日式房型の静謐な空間に身を沈めた。そこに用意されていたラテックスマットレスに体を預けたとき、私たちは同時に、身体が心地よく押し返される不思議な感覚に気づいた。それは、誰かに優しく抱きしめられているような、あるいは、ずっと張り詰めていた心の緊張の糸が、ふっと緩むような感覚だった。重力から解放されて、ただそこに在ることを許される贅沢な時間。ふと、あなたが慣れない手つきで布団を畳もうとして、不格好な塊のような形にしてしまったとき、私たちは同時に小さく吹き出した。その、なんてことのない、ちょっとした失敗が、この旅で一番記憶に残る純粋な瞬間になるのかもしれない。互いの体温が、薄いシーツ越しにじわりと伝わってくる。正解なんてわからないけれど、今のこの温度が、私たちにとってのちょうどいい距離感なのだろう。采莓行館Caimei Hotelを包む秋の夜風が、街の静寂を運んできている。私たちはただ、同じリズムで呼吸を繰り返していた。

遠くの丘に、最後の一筋の光が溶けていった。

  • 大湖の街を散策し、地元の人だけが知る小さな果樹園で、少し酸っぱい秋の味覚を探してほしい。
  • 早朝、街が完全に目覚める前に、八階の窓から静かに空の色が変わる瞬間を眺めてほしい。