← 戻る シャインムードリゾート

真夜中の空腹に、抗う術はなかった

指先に触れるシーツのひんやりとした感触と、それとは対照的に、まだ肌にまとわりつく温泉のしっとりとした熱。享沐時光莊園渡假酒店の客室に足を踏み入れたとき、まず目に飛び込んできたのは、心を解きほぐすような温かみのあるインテリアだった。10月の苗栗の夜は、空気が凛として澄み渡り、呼吸をするたびに肺の奥まで心地よい冷気が満ちていく。私たちは、この静寂の中で「完璧な睡眠」を享受するはずだった。しかし、誰が言い出したのか、ふと漏れた「お腹空いた」の一言が、静まり返った部屋に波紋のように広がった。それはもはや単なる空腹ではなく、深夜にしか許されない不可避のミッションへと変わった。コンビニで買い込んだ、正体不明の地元スナックや、甘い香りが漂う伝統的なお菓子。それをベッドの上に雑多に広げたとき、私たちはこの旅で一番「正しい」方向に迷い込んだ気がした。プラスチックの袋が擦れる高い音が、静まり返った部屋に不自然に響き、それがなんだか可笑しくて、私たちは顔を見合わせて小さく笑い合った。

咀嚼音に紛れ込ませた、本音の断片

「ねえ、明日の朝、絶対みんな起きられないよね」

誰かがポテトチップスを口に放り込みながら、わざとらしくため息をついた。私たちは、ベッドの上で足を絡ませ合い、不格好な円を描いて座っている。窓の外に広がる苗栗の夜景は、深い闇に溶け込み、輪郭を失っていた。部屋の中を照らす控えめな間接照明が、私たちの影を壁に長く伸ばしている。

「いいじゃん。だって、今日の旧山線鉄道自転車、あれ考えすぎだったし。全力で漕いで、結局一番盛り上がったのが『誰が一番早く疲れるか』っていう賭けだったんだから」

「それな。っていうか、あの坂道で君が変な声を上げたとき、正直ちょっと引いたよ」

「ひどいな。あれは身体が反応しただけ。っていうか、君だって途中で迷子になって、全然違う方向に歩き出そうとしてたでしょ」

互いの失敗を丁寧に、そして残酷に掘り起こしては笑い合う。口の中にあるスナックの塩気が、会話のテンポを加速させる。普段なら、もっと丁寧に言葉を選び、相手の機嫌を伺いながら会話をするのかもしれない。けれど、この深夜の、少しだけ散らかった部屋の中では、遠慮という名のフィルターがゆっくりと剥がれ落ちていく。もしかすると、私たちは本当の意味で繋がるために、わざと不格好な時間を共有したかったのかもしれない。誰一人として正解を提示しないまま、私たちはただ、お互いの声の周波数に身を任せていた。この贅沢な時間の正体は、有名な観光地を巡ることではなく、こうしたとりとめもない会話の中にこそあったのだと、不意に気づかされる。

満たされた胃袋と、心地よい空白

袋の中身が空になり、最後の一片を誰が取るかで小さな争いが起きた後、部屋にはふっと静寂が戻ってきた。それは、先ほどまでの静寂とは違う、密度のある静けさだった。誰かが小さくあくびをし、もう一人がゆっくりとベッドに体を沈める。耳に届くのは、遠くで聞こえる風の音と、誰かの規則正しい呼吸の音だけ。享沐時光莊園渡假酒店の浸泡池で心身を解きほぐした後の、あの肌が吸い付くような滑らかな感覚が、今度は精神的な安心感として全身を包み込んでいる。10月の夜の冷気が、わずかに開いた窓から忍び寄ってくるけれど、それが心地よくて、私たちは自然と寄り添い合った。明日になれば、また「観光客」としての顔に戻り、ガイドブックに載っている有名な景色を探しに行くのだろう。けれど、この深夜の、誰にも見られない、何の価値もない時間だけは、私たちの記憶の底に、一番深い色で刻まれるはずだ。空になった袋が、風に吹かれてカサリと音を立てた。その小さな音が、まるでこの至福の時間の終わりを告げる合図のように聞こえた。

裸足で踏んだタイルの温度が、心地よく冷たかった。

  • 苑裡の街中で見つけた、地元の人しか知らないような小さな点心店での買い出し
  • ホテルの部屋で、温かいお茶と一緒に楽しむ地元産の蜜香紅茶と甘いお菓子