← 戻る 石風温泉キャッスル

午後3時、陽光が床に白い四角を描き、世界を塗りつぶそうとしていた頃

グラスの表面に結露がつき、指先にひんやりとした水滴がまとわりつく。見上げると、7月の苗栗の太陽は、すべてを白く塗りつぶそうとするほどに眩しく、空の青ささえも白飛びしていた。私たちは「苗栗大湖石風溫泉渡假城堡」の庭園にいた。緑のアーチをくぐり抜けるとき、湿った土と濃い草木の匂いがふわりと鼻をくすぐり、そこだけ空気が数度低いような錯覚に陥る。目の前にあるのは、鮮やかな赤色が目を引く苺の雪花氷だ。スプーンで掬い上げると、小さな氷の粒が不揃いに重なり合い、口の中でゆっくりと形を失っていく。その溶ける速度が、今の私たちのぎこちない距離感に似ている気がした。

「……甘すぎるかな」

君が小さく呟いた言葉が、静寂の中に溶ける。もしかすると、私たちはまだ、お互いの正しいリズムを測りかねているのかもしれない。ふと、君の白いシャツの襟元に小さな苺のシロップが飛んでいた。それを指摘しようとして、言葉が喉の奥で止まる。わざとらしくない、けれど確かな沈黙。私たちは、何か重要なことを話し合わなきゃいけないと思っていたけれど、この冷たい甘さが口いっぱいに広がる瞬間だけは、このままでもいい気がした。氷が溶けて液体に戻るように、張り詰めていた緊張が少しずつ、輪郭を失っていく。完璧な答えなんてなくていい。ただ、同じ温度の風に吹かれて、同じ色の氷を食べている。その事実だけが、今の私たちにとって一番誠実な答えなのだと思う。ふふ、君の口角にまだ少しだけ赤い氷がついている。それを笑い飛ばすまでの時間は、案外心地よいものだった。

午前2時、窓の外で夜の虫たちが静かに呼吸を合わせていた頃

裸足で踏みしめたタイルの温度が、心地よく肌に馴染む。広々としたヴィラの室内は静まり返っていて、遠くで山風が木々を揺らす音だけが、かすかなリズムを刻んでいた。私たちは、予約していた湯屋の温かい湯船に身を浸している。お湯の感触は驚くほど滑らかで、肌を優しく包み込む。この、とろりと肌に吸い付くような独特の質感は、まるで外界から完全に切り離された聖域にいるような心地よさがあった。立ち上る白い湯気に視界がぼやけ、隣にいる君の輪郭が曖昧になる。けれど、水中で偶然触れ合った指先の感覚だけは、驚くほど鮮明に伝わってきた。

もしかすると、言葉で伝えようとするよりも、この温度を共有していることの方が、ずっと多くのことを語っているのかもしれない。私たちは、お互いの欠けている部分を無理に埋め合おうとするのではなく、ただ、その空白があることを一緒に眺めている。孤独というものは、取り除くべき問題ではなく、もともと持っていた身体の一部のようなものだ。だから、隣に誰かがいても、ふとした瞬間に訪れる静寂に怯える必要はない。むしろ、その静寂を共有できることこそが、本当の意味での親密さなのだという気がした。お湯から上がった後、冷たい夜風が火照った肌を撫でる。その瞬間の、心地よい身震い。私たちは、どちらからともなく、ただ寄り添って夜の闇を見つめていた。明日になれば、また眩しい太陽が戻ってくるけれど、この夜の温度だけは、記憶の底に深く沈んで、ずっと消えないままでいそうだった。私たちは、まだ模索している。けれど、この場所で、少しだけ呼吸が合った気がした。

窓の外で、夜の風が静かに、けれど確かに歌っていた。