← 戻る 石風温泉キャッスル

08:30, 朝食ホールの高い天井の下

裸足で踏みしめた木の床が、心地よいひんやりとした感触を足裏に伝えてくる。子供たちの弾けるような高い声が、ホールの高い天井にぶつかり、心地よいノイズとなって降り注いでいた。ここでは、館内専用のゴム製のスリッパに履き替えるという小さな儀式がある。その一歩一歩が、日常から切り離された「お城」への入り口のように感じられた。次男が私の袖をぎゅっと引っ張りながら、「温泉ってどこから湧いてくるの?」と不思議そうに聞いてくる。正直に言って、私も正確な答えは知らない。けれど、その答えを一緒に探そうとする数分間の迷路のような時間が、旅の本当の始まりなのだと思う。苗栗大湖石風溫泉渡假城堡の朝は、そんなとりとめのない会話と、地元の食材を使った料理の香ばしい匂いに包まれて始まる。窓の外に広がる淡い緑のグラデーションを眺めていると、完璧に計画されたスケジュールなんて、この穏やかな空気感の前では意味をなさないのかもしれない。パンを頬張りながら隣の家族と笑い合う子供たちの姿を見て、家族というものは、最初からぴったりとはまるパズルのピースではなく、旅という時間の中で少しずつ形を削り合いながら、なんとなく合わせていくものなのだと感じた。

14:00, 庭園の特等席で

舌の上に広がる、強烈な冷たさと鮮やかな甘酸っぱさ。いちごの雪花氷の赤いシロップが、子供たちの口の周りを真っ赤に染めている。4月の苗栗は、空気の中にほんの少しだけ、春特有のしっとりとした湿り気が混ざっていた。ふと見上げると、桐の花が白い雪のように、静かに、けれど絶え間なく舞い落ちている。次男がそれを必死に捕まえようとして、思い切り地面に転んだ。泣き出すかと思ったけれど、彼は手のひらに乗った小さな白い花びらをじっと見つめ、「見て!雪が降ったよ!」と満面の笑みを浮かべた。その瞬間、私の心の中にあった「予定通りに観光地を回らなきゃ」という強迫観念が、春の風に溶けるようにふっと消えていくのがわかった。日式造景の美しい庭園のベンチに深く腰掛け、ゆっくりと溶けていく氷を追いかけながら、私たちはただそこにいた。風が通り抜けるたびに、白い花びらが肩に触れる。その柔らかな感触は、この土地が私たちにくれた小さな挨拶のようなものだった。ここでは、急ぐ必要なんてどこにもない。ただ、氷が溶ける速度に合わせて、贅沢に時間を消費すればいいのだ。

19:00, 湯気に包まれた静寂と喧騒

肌にまとわりつく、お湯の滑らかで濃密な質感。温泉に身を委ねると、日中の歩き回った足の疲れが、ゆっくりとほどけていく。ここの湯船には絶妙な段差があり、小さな子供でも安心して浸かれるようになっている。次男たちは、誰が一番長く潜れるかという、大人から見ればどうでもいい競争に夢中だ。激しく上がる水しぶきと、浴室の石壁に反響する笑い声。その賑やかさは時に騒々しくもあるけれど、今はそれが心地よい音楽のように聞こえる。大人の休息というものは、こうした愛おしい喧騒の隙間にこそ存在するのかもしれない。湯上がりに飲んだリンゴ酢の、ツンとする酸味と爽やかな後味が、火照った体に心地よく染み渡る。石造りの壁に囲まれた空間は、外の世界とは違う緩やかなリズムで動いている。子供たちが、お湯でふやけた指先を不思議そうに眺めている。そんな小さな発見に一緒に笑い合える時間が、何よりも贅沢な宝物に思えた。私たちはただ一緒に浸かっているだけなのに、言葉にしなくても伝わる深い安心感が、白い湯気と一緒に部屋を満たしていた。

22:30, 眠りに落ちた後の部屋で

子供たちの規則正しい寝息が、部屋の中に静かに満ちている。さっきまであんなに騒いでいたのが嘘のように、今はただ、深い静寂がそこにある。広々とした別荘風の客室のリネンに身を沈めると、心地よい疲労感が波のように押し寄せてきた。畳の香りがかすかに漂う空間で、ベッドから窓まであと何歩あるだろうかと、暗闇の中でぼんやりと考えてみる。外では夜風に揺れる木の葉の音が、ささやくように聞こえてくる。隣でパートナーが小さくため息をついた。それは疲れというよりも、心から満たされた充足感に近い音だったと思う。旅というのは、きっとこういうことだ。思い通りにいかないことの連続で、予定は簡単に崩れ、子供たちのわがままに振り回される。けれど、その不揃いな瞬間の一つひとつが、後になって一番鮮やかな記憶として心に刻まれる。私たちは、完璧な家族であろうとするのをやめて、ただこの不完全で愛おしい時間を共有することを選んだ。明日になればまた賑やかな朝が来る。けれど今は、この静かな暗闇の中で、ただお互いの存在を確かめ合っていたい。

夜の帳が降りた城堡の窓から、遠くの山並みが深い青に溶けていた。

  • 桐花祭の時期は、あえて予定を詰め込まずに、庭園で花びらが舞う時間を贅沢に過ごしてほしい。
  • お子様連れの方は、食後のいちごの雪花氷をぜひ。口の周りが赤くなるまで楽しむのが、ここでの正しい作法だ。