← 戻る 石壁温泉リゾート

「この道、絶対違うって」

「ねえ、誰がこのルート選んだのよ」
「GPSだよ!機械が正しいって言ったんだよ」
「その機械、多分迷子になってるね。私たちと一緒に」
「うるさいな!まあ、見てよこの景色。最高じゃん」
「最高?ただの山と道しかない状況をそう呼ぶの?」

車内の温度は、エアコンが全力で戦っているのに、どこか諦めたようなぬるさに包まれていた。窓の外には、七月の苗栗の、白すぎる太陽が突き刺さっている。誰かがサイダーのボトルを開けた。シュポッという鋭い音が、狭い車内に妙に大きく響き、一瞬の静寂が訪れる。私たちは互いに、誰が一番の間違いを犯したかを競い合っている。それがこのグループの、唯一の共通言語みたいなものだ。結局、目的地に辿り着いたのは予定より一時間遅れて。でも、それでいい。正解に最短距離で辿り着く旅なんて、退屈すぎて欠伸が出るから。

静寂と湿気が溶け合う、隠れ家のような場所

車を降りた瞬間、肌にまとわりつくような重い湿気が、まるで濡れたコートのように肩にのしかかった。けれど、「苗栗大湖石壁溫泉渡假山莊/道地客家菜/溫泉湯屋/民宿/住宿」の敷地へ足を踏み入れると、空気の質感がふわりと変わる。温度が数度下がっただけでなく、森の深い呼吸が混じったような、清涼な気配がした。

ロビーから部屋へ向かう道、裸足で踏みしめたタイルの冷たさが、足の裏から脳まで突き抜ける。それは、きつすぎるシャツのボタンを一番上から一つずつ外していくような、緩やかな解放感だった。部屋の扉を開けると、古い木材の、少しだけ酸っぱい、けれど懐かしい匂いがした。モダンな洗練とは程遠い。けれど、その年季の入った空間こそが、今の私たちにはちょうどいい。

窓を全開にすると、目の前には河谷の深い緑が波打ち、遠くで聞こえる川のせせらぎが、低周波の心地よいノイズとなって頭の中の雑音を塗りつぶしていく。テラスに設えられた石造りの温泉に身を沈めれば、皮膚の境界線が曖昧になり、自分が人間なのか、それともただの温かい液体なのか分からなくなる。夕食に出た客家料理は、正直に言って、予想していたよりもずっと「土」の味がした。特に、もやしと豚肉の炒め物。噛むたびに、この土地の湿った土と、そこに根を張る人たちの生活が、そのまま口の中に流れ込んでくる感覚。洗練なんて言葉は、ここには必要ない。ただ、腹が満たされる。それだけで十分だった。

午前二時、不器用な本音のやり取り

「……まあ、ここにして正解だったかもね」
「今さら。一時間遅れたこと、まだ許してないから」
「はいはい。そういうこと言って、さっき一番長く温泉に浸かってたのは誰だっけ」
「……うるさい。静かにして」

バルコニーの手すりに寄りかかると、夜の山空気が、冷たい指先で頬をなでた。昼間のあの灼熱が嘘みたいだ。遠くで虫が鳴いている。不規則なリズム。心地よい不協和音。私たちは、あえて深い話をしたかったわけじゃない。ただ、隣に誰かがいて、同じぬるい風を感じている。その事実だけで、十分な答えになっていた。

「来年も、またこんな感じでいいかな」
「いいけど、次はGPS以外のルートを考えようね」
「それ、私のことディスってるでしょ」
「あはは」

正解を探すことに疲れた私たちは、ここでただ、不完全なままの自分たちを肯定していた。答えなんて出なくていい。ただ、この静寂が心地よければ、それでいい。

ぬるくなったサイダーのボトルをテーブルに置くと、小さな音がして、夜がまた深くなった。

  • 7月の午後は予定を詰め込まず、部屋のテラスで川の音をBGMに深い昼寝を。
  • 客家料理の塩気ある味を楽しんだ後は、冷えた地元のフルーツで口の中をリセットして。