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ロビーのタイルを指でなぞる速度

ロビーのタイルを指でなぞる速度

長崎の風と家族の記憶を綴る、五つの音色

1. ポルトガルタイルの滑らかな感触の上で、小さなゴム底の靴が「ピピっ」と軽快に鳴る音。下の子が、床に描かれた深い青の模様を小さな指でなぞるたびに、好奇心に満ちた歩みが止まる。ANAクラウンプラザホテル長崎グラバーヒルのロビーに漂う、かすかな百合の香りと共に、彼にとってはこの青い模様こそが、未知の海へと続く地図の始まりなのだろう。

2. スーツケースのファスナーが、無理やり詰め込まれたおもちゃに阻まれて「ジジッ」と詰まる音。「もう入らないよ!」という私の焦った声と、それでも「これだけは絶対持っていく」と言い張る老大の頑固な意思がぶつかり合う。プラスチックの恐竜が端っこに引っかかったもどかしい感触さえも、旅の始まりを告げる賑やかな前奏曲のように聞こえ、不思議な安心感が胸に広がった。

3. ホログラムのように揺れる柔らかな光の中で、小さな声が「お人形さん、寝てるの?」と問いかける音。ひな祭りの飾りに目を奪われた子供の、純粋な好奇心が、吹き抜けの高い天井へと吸い込まれていく。静まり返った空間にその幼い声が溶け込んだとき、ホテルの広々としたロビーが、外の世界から切り離された家族だけの優しいシェルターのように感じられた。

4. 重厚なエントランスのドアが「ゴトン」と静かに閉まり、長崎の坂道を吹き抜ける冷たい風が遮断される音。冷え切った指先が、室内のしっとりと柔らかな温度に触れて、ゆっくりとほどけていく感覚。外の喧騒が消え、家族だけの親密な空気が、まるで温かいお茶のようにゆっくりと充満していく。この温度の境界線こそが、日常を脱ぎ捨てて旅へと没入するスイッチなのだと思う。

5. 真っ白なリネンのさらりとした擦れる音と、三つの異なる呼吸が次第に重なっていく音。ツインルームの心地よいベッドに、一日中歩き回った身体が深い重みとなって沈み込む。誰が誰の肩に頭を乗せているのか分からないまま、深い眠りの海へと落ちていく。その不揃いながらも穏やかな寝息こそが、今日という日の最も完璧なエンディングだった。

石鹸の淡い香りと、小さな手のひらのぬくもりだけが静かに残った夜。

  • 朝7時の、空気がピンと張り詰めた時間に大浦天主堂まで歩いてみる。静寂の中で交わす会話が、家族の絆をより深くしてくれるはず。
  • ロビーのポルトガルタイルのなかから、家族それぞれが「自分だけの模様」を一つ見つけてみる。小さな発見が、旅の素敵なしおりになる。

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