深夜二時、ページをめくる指先だけが聞こえていた
ページが折られた古い文庫本。指先で触れると、紙の端がわずかに硬く、何度も読み返されたことがわかる。少しだけ黄色く変色した紙面からは、古いバニラのような、あるいは乾いた埃のような、懐かしくも切ない匂いが漂っていた。誰かがここにある言葉を忘れた…
本の隙間で、君の呼吸が聞こえた
頬を刺すような3月の冷たい風が、まだコートの襟元にまとわりついていた。新宿駅からのわずか8分という距離。そこは歌舞伎町のネオンが放つ過剰な光と、誰のものかもわからない急ぎ足の足音が、絶え間なく街を塗りつぶしていく場所だ。そんな喧騒の真っ只中…