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イルミネーションが点る頃、靴音が消える

靴音が消える3分の距離

朝6時、駅のホームに降り立ったとき、靴底がプラットホームの冷えたコンクリートを踏む音が、いつもより鋭く響いた。三人がかりで荷物を引っ張りながら、息子の一人が「まだ暗いね」と呟く。冬の湯河原は、日が昇るのが遅い。

駅からホテル城山まで、3分という距離が、その日の空気を決めてしまう。外灯の黄色い光が、アスファルトの上に落ちる影を追いながら歩くと、足音が自然と小さくなる。まるで誰かが「静かに」と囁いているみたいだ。


靴下の温度が教えてくれること

チェックインのとき、フロントの方が「お部屋は淡紅藤か紫紺、お好きな方をどうぞ」と選んでくれた。淡紅藤の部屋に決めたのは母親だった。理由は「セミダブルベッドが二台あって、子どもが寝転がっても余裕がありそうだから」。

部屋に入ると、まず感じたのは靴下の温度だ。床が暖かい。湯河原の地下から湧く温泉の熱が、床下を這っているらしい。子どもたちはさっそく布団にダイブし、床の温度を競い合っていた。

「 nuovissimo! 」と叫んだのは息子の一人。イタリア語で「最新!」という意味らしい。母親が「 nuovissimo ってどういうこと?」と聞くと、息子は「 nuovissimo bed! 」と答える。


屋上のイルミネーションが、子どもの声を包む

午後4時、日が沈む前に屋上庭園に上がった。イルミネーションが点り始め、暗くなった空と競うように光が揺れる。子どもたちは「見て見て!」と手を引っ張り、母親は「写真撮ろうね」とカメラを構えた。

そのとき、一人が「イルミネーションって、星みたいだね」と言った。実際、空の星は見えなかったけれど、子どもの言葉に母親は頷いた。光が光を呼ぶように、家族の声が重なる。

「お風呂、入ってもいい?」と下の子が聞く。母親は「あとでね」と答えながら、屋上のベンチに座った息子の頭を撫でた。ベンチの木目が、指先で感じられるほど冷たくなっている。


夜のラドン温泉が、足の裏を解す

大晦日の夜、家族で貸切露天風呂に入った。湯の温度は42度。肌に触れたとたん、息が止まる。ラドン温泉の湯気が、天井に向かって真っすぐに立ち上る。子どもたちは最初こそびっくりしていたけれど、すぐに湯船に潜り、泡立てては「これ、お風呂じゃない!」と笑い合った。

母親は湯船に浸かりながら、足の裏に沈み込む温泉の圧力を感じていた。湯船の縁に足を掛けると、タイルが冷たくて思わず声を上げた。でも次の瞬間、温泉の熱が足の裏全体を包み込む。

「これ、ずっとここにいたい」と下の子が呟く。母親は「そうだね」と答えた。言葉が、余計なもののように感じられた。


靴下を履き替える音が、1年の終わりを告げる

大晦日の夜、ホテル城山のラウンジで新年のカウントダウンを待った。部屋のテレビで紅白歌合戦が流れ、子どもたちは机に突っ伏して寝ていた。母親はコーヒーを一口飲み、カップの温みを確かめる。

時計が12時を指すと、窓の外で花火が打ち上がった。轟音が一瞬静寂を破り、子どもたちは目を覚ました。けれど、花火が終わったあとは、また静寂が戻ってきた。

子どもたちは靴下を履き替える音を立てながら、新しい年を迎えた。その音が、1年の終わりと始まりを同時に告げていた。

  • 湯河原駅からホテル城山までの3分間、靴音を意識しながら歩く。子どもに「 nuovissimo bed 」を探させる
  • ホテル城山の屋上庭園でイルミネーションを鑑賞しながら、家族で写真を撮る。子どもに「イルミネーションは星みたい」と言われる瞬間を狙う