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午前2時のコンビニ袋と、畳の匂い

真夜中の空腹は、誰のせいだったか

指先に触れる空気は、薄い氷の膜のような冷たさだった。三月の仙台、秋保の夜は、街の喧騒が届かない分だけ静寂が重く、湿った土と針葉樹の香りが濃く漂っている。その静けさを切り裂くように、コンビニのビニール袋がカサカサと乾いた音を立てる。実は、夕食の豪華なビュッフェであんなに皿を盛り付けたのに、部屋に戻った途端に「何か決定的に足りない」と感じる不思議な空腹感に襲われた。誰が言い出したのかはもう覚えていないけれど、私たちは寒さに肩をすくめ、白く濁った吐息を吐きながら夜道を戻ってきた。秋保グランドホテルのエントランスに足を踏み入れた瞬間、外の鋭い冷気が、ロビーの柔らかい温もりに溶けていくのがわかった。手に持った袋の中には、不健康そうな揚げ物と、地元の銘菓、そして誰かが言い出した「とりあえず」の飲み物が詰め込まれている。この不格好な戦利品を抱えて、私たちは本館15畳和洋室という、贅沢すぎるほどの空白地帯へと戻っていった。

畳の上に散らばる、心地よい不協和音

「ねえ、桜の開花予想、誰が信じろって言ったっけ」
畳の上に直接、コンビニの袋をぶちまける。ポテトチップスの袋が開くパチッという乾いた音が、広い部屋に心地よく響いた。
「いや、ネットには『そろそろ』って書いてあったし。実際、あそこまで歩いたんだから、一輪くらいあったでしょ」
「一輪もなかったよ。あったのは、ただの茶色の枝だけ。誇張抜きで、絶望的な茶色だった」
私たちは、ふかふかのベッドをあえて無視して、畳の上に陣取った。浴衣の袖が畳に擦れるササッという小さな音。誰かが唐揚げを口に放り込み、熱さと塩気に満足げな溜息をつく。もぐもぐと口を動かしながら、私たちは昼間に見たひな祭りの人形たちの話を始めた。静謐な空間に並んでいたあのお人形たちの、どこか遠くを見つめる瞳。あの張り詰めた静けさと、今の私たちのこの騒がしさ。そのコントラストが、なんだか滑稽で、たまらなく心地よかった。
「っていうか、この部屋広すぎない? 誰かが迷子になっても気づかないレベルだよ」
「いいじゃん、その分、コンビニ飯を広げるスペースがあるし。ほら、このずんだ餅、食べてみて。甘さがちょうどいいから」
「あ、これ美味しい。でも、さっきの唐揚げの塩気と混ざって、味覚が完全に混乱してる気がする」
私たちは互いの顔を見て、同時に吹き出した。完璧な旅プランなんて、最初から必要なかったのかもしれない。予定していた景色が見つからなかったことで、代わりにこの部屋の中にある、どうでもいい会話だけが鮮明に浮かび上がってくる。誰かが飲み物をこぼしそうになり、慌ててティッシュで拭き取る。そんな、なんてことない動作の一つひとつが、この旅の本当の輪郭な気がした。

満たされた後の、贅沢な空白

最後の一口を飲み干すと、部屋にふっと深い静寂が戻ってきた。食べ終えた後の袋が、畳の上で力なく横たわっている。お腹がいっぱいになると、心の中の空白まで何かが満たされたような、奇妙な充足感があった。ふと気づくと、部屋の隅にある間接照明が、畳の目を黄金色に照らしている。その光の粒子が、ゆっくりとダンスをしているように見えた。外はまだ、春を拒んでいるような冷たい風が吹き、磊々峡のせせらぎが遠くで鳴っているのかもしれない。けれど、この四角い空間の中だけは、私たちの体温と、温泉で温まった肌の熱でちょうどいい温度に保たれていた。誰かが小さくあくびをし、そのまま畳に体を預ける。もはや言葉を交わす必要はなく、ただ同じリズムで呼吸をしていることだけが、深い信頼の証のように感じられた。足りないものがあるからこそ、今ここにあるものが愛おしくなる。それは、音楽における休止符のようなものだ。音が止まった瞬間に、本当の意味でメロディが完成する。

半分だけ残ったペットボトルの水に、月明かりが静かに溶け込んでいた。

  • 仙台のコンビニで買える、ずんだ風味のスイーツ。甘さと塩気のバランスが絶妙です。
  • 地元の地酒を少量だけ。畳の上でゆっくり飲むと、体温がじわりと上がるのがわかります。