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コンビニの袋が、部屋の灯りに透けていた夜

コンビニの袋が、部屋の灯りに透けていた夜

深夜二時、空腹という名の共犯者

一月の熱海の夜風は、肺の奥まで凍らせるような鋭さがあった。指先に食い込むビニール袋の取っ手が、冷え切った皮膚に痛い。ホテルニューアカオの重厚なエントランスを抜け、暖房の効いたロビーに足を踏み入れた瞬間、外気で麻痺していた鼻腔に、古い絨毯の埃っぽさと潮の香りが混ざり合った、どこか懐かしい昭和レトロな匂いが流れ込んできた。私たちは、誰が一番「旅に不必要なもの」を買うかという、大人の遊びとしてはあまりに幼稚な賭けをしていた。結果、袋の中身は、深夜のテンションで選んだ正体不明の激辛スナックと、不自然なほど大量のプリン、そして冷え切った鶏の唐揚げ。豪華なシアターレストランでのディナーを終えた後だというのに、私たちの胃袋は、もっと不健康で、もっと個人的な、背徳感に満ちた何かを激しく欲していた。エレベーターの鏡に映る、寒さで赤くなった自分たちの顔が滑稽で、誰かが小さく吹き出した。

畳の上で交わされる、不格好な本音

「ねえ、なんでわざわざこの激辛のやつ買ったの? 誰が食べると思ってんのよ」

畳とベッドが同居する和洋室の、ちょうどその境界線あたりに私たちはあぐらをかいて座り込んでいた。誰かが袋を開ける乾いた音が、静まり返った部屋に鋭く響く。私は、指先に付いた唐揚げのねっとりとした油を気にしながら、適当に答えた。

「だって、パッケージが絶望的にダサかったから。こういうのが旅の正解な気がしたし」

「正解の方向性が致命的にズレてるんだよな、お前は」

そんなくだらないやり取りをしながら、私たちはコンビニの惣菜を、まるで最高級のフルコースであるかのように、畳の上に丁寧に並べた。窓の外では、静かな雪が降り始めているのかもしれない。ガラスに反射する部屋のオレンジ色の灯りが、プリズムのように細かく分かれて、私たちの間に散らばっていた。初詣で願ったはずの「立派な大人になる」とか「仕事で成功する」とかいう、どこか借り物の願い事なんて、この唐揚げの脂っぽさと、口の中で弾ける激辛スナックの刺激の前では何の価値もない。私たちは、互いの過去の失敗談や、誰にも言えない情けない記憶を、ポテトチップスを齧るリズムに合わせて、吐き出すように話し合った。誰かが「っていうか、今回の計画、誰が立てたんだっけ」と呟き、全員で同時にその人物を指差して笑った。その瞬間、私たちは完璧なチームだった。効率や正解なんてどうでもよくて、ただ一緒にバカげた時間を共有しているという事実だけが、心地よい重みを持ってそこにあった。

満腹の果てに訪れる、凪のような静寂

最後の一つまでプリンを食べ終え、部屋には空になったプラスチックの容器だけが、寂しげに残った。激しい会話の波がゆっくりと引き、代わりにやってきたのは、耳の奥で低く鳴っているような、透明な静寂だ。エアコンの微かな動作音が、部屋の輪郭をなぞるように一定のリズムで響いている。私たちは、もう何も話さなかった。ただ、窓の外に広がる熱海の夜の海を、ぼんやりと眺めていた。街の灯りが、暗い水面に溶けて、輪郭を失っている。その光の滲みを見ていると、自分の中にある言葉にならない不安や、名前のつかない孤独さえも、この深い夜の闇に静かに吸収されていくような気がした。誰かと一緒にいるのに、同時に一人でいられる。その絶妙な距離感が、この部屋の空気には満ちていた。私たちは、互いの存在を確認するために言葉を必要としなかった。ただ、隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っている。それだけで、十分だった。もしかすると、旅の本当の目的は、観光地を巡ることではなく、こういう「何の意味もない時間」を、信頼できる誰かと分かち合うことだったのかもしれない。

冷え切った指先を、陽だまりのような温かい布団の中へと滑り込ませた。

  • 地元のコンビニで売っている、少し甘すぎる地域限定のカスタードプリン
  • 翌朝の冷え込みに備えて、あえて買い込んだ温かい缶コーヒー