雨の津山で耳にした、家族の記憶を綴る五つの音
パシャパシャと、安っぽいビニール傘が激しくぶつかり合う音。長男が「僕が持つ!」と意気込み、次男がそれに抗う喧騒の中、二人とも肩が半分濡れていた。6月の津山の空気は、湿り気を帯びて肌にまとわりつくほど重たいけれど、その密やかな湿度こそが、私たちを一つの塊として結びつけてくれている気がした。
コツコツと、ホテルの廊下に響く、少し大きすぎる子供用スリッパの乾いた音。ホテルリゾーピア 熱海の廊下は、夜が深まると驚くほど静まり返り、自分の心拍数まで聞こえてきそうな心地よい緊張感に包まれる。次男がわざと走り出し、厚い絨毯に吸い込まれる足音が遠ざかるたびに、この静寂という贅沢を独占している幸福感に浸った。
ザアアと、特別客室(温泉露天風呂テラス付)から絶え間なく聞こえる水の音。頬を撫でる冷たい雨と、芯まで温める湯の温度が混ざり合い、心身の境界線がゆっくりと溶けていく。次男が「ねえ、このお湯って大きなティーポットから出てるの?」と真面目な顔で問いかけ、私はその純粋な空想に寄り添いながら、もやに煙る津山の深い緑をぼんやりと眺めていた。
カチャカチャと、朝食のプレートの上でフォークが軽快に踊る音。地元の名産である津山牛を口にした長男が、「これ、お肉なのに甘い!」と目を丸くして歓声を上げる。芳醇なコーヒーの香りと子供たちの賑やかな話し声が溶け合い、レストランの中だけが外界の雨を忘れさせたかのように、黄金色の光に満ちていた。
スー、スーという、深い眠りに落ちた子供たちの規則正しい寝息。ツインルームの厚い布団に潜り込むと、外の気圧が下がったせいか、心地よい倦怠感が絹のように体を包み込む。誰かが寝返りを打つたびにシーツが擦れるかすかな音が、世界で一番安心できる子守唄のように響き、計画通りにいかない旅の不完全ささえも、いまはこの場所で正解なのだと感じさせてくれた。
玄関先で、しわしわに乾ききった子供たちの靴が静かに並んでいた。
- 鶴山公園まで足を伸ばして、雨に濡れていっそう色を深めた紫陽花を探してみてください。
- ホテルのシャトルバスを利用して、歴史ある街並みのしっとりとした湿度を肌で感じてみるのがおすすめです。