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裸足で歩いた廊下の、少し冷たい温度

裸足で歩いた廊下の、少し冷たい温度

湯煙と新緑が溶け合う、別府の街角

指先に触れる空気はしっとりと重く、どこか甘い。5月の別府は、街全体が深い緑に飲み込まれそうな季節だ。道端に咲く薔薇の濃い香りが、時折吹く潮風に乗って鼻先をかすめる。上の子は「お腹すいた!」と何度も言い張り、下の子は道端に咲く名もなき花に夢中で、歩道の上で何度も立ち止まった。私たちの歩幅はバラバラで、予定していたスケジュールなんて、最初から機能していなかったのかもしれない。けれど、その不揃いなリズムこそが、旅の正体なのだという気がする。街の至る所から立ち上る白い湯気が、新緑の鮮やかさをいっそう引き立てていて、ただ歩いているだけで、肺の奥まで洗われるような感覚があった。家族という小さな集団が、この広い風景の中に溶け込んでいく。そんな、心地よい不安定さを抱えながら、私たちは目的地へと歩を進めた。

喧騒を脱ぎ捨て、静寂の入り口へ

グランヴィリオホテル別府湾 和蔵の入り口に足を踏み入れた瞬間、外の喧騒がふっと遠のいた。自動ドアが開いた時に流れ込んできたのは、かすかな木の香りと、温泉特有の柔らかな硫黄の匂い。外の空気よりもわずかに温度が低く、火照った肌に触れる感覚が心地よい。靴を脱ぎ、畳や絨毯の柔らかな感触が足裏に伝わると、ようやく「ここが私たちの居場所だ」という実感が湧いてきた。ロビーに広がる空間は、外の賑やかさを優しく包み込む大きな器のようだった。子供たちが声を潜める必要はなく、かといって騒ぎすぎることもない。ただ、そこにいるだけで呼吸が深く、ゆっくりになる。そんな空気の密度が変わる瞬間があった。

潮風が運ぶ、家族だけの小さな王国

案内されたオーシャンルームに入ると、子供たちは一斉に歓声を上げた。34.8平方メートルという空間は、大人にとっては十分な広さだが、子供たちにとっては未知の探検地らしい。上の子が「ここはお城だ!」と言い張り、ベッドの上を跳ね回る。下の子は、部屋の隅にあるソファの隙間に自分だけの秘密基地を作っていた。私たちは、彼らが自由に領土を広げる様子を、ただ眺めていた。大人が用意した「完璧なプラン」よりも、子供たちが勝手に作り出した「めちゃくちゃな時間」の方が、ずっと価値があるのかもしれない。

お楽しみの夕食は、シーサイドダイニング「別府八景」で。オープンキッチンのライブ感に、子供たちの目は釘付けだった。目の前で揚げられる天ぷらの、パチパチという小気味よい音。黄金色に輝く海老の衣が、熱々のまま皿に盛られる。その香ばしい匂いが鼻をくすぐると、さっきまで喧嘩していた子供たちが、不思議と静かに順番を待っていた。地元の新鮮な刺身の、ねっとりとした甘み。焼きたての料理が並ぶバイキング形式は、好き嫌いの激しい子供たちにとって、最高の戦場だった。大人は大人で、冷えた飲み物を片手に、久しぶりにゆっくりと会話を楽しむ。誰かがこぼしたソースを拭き取り、笑い合いながら食事をする。そんな、少しだけ騒々しい時間が、何よりも贅沢に感じられた。

そして、天然温泉の展望大浴場。お湯に浸かると、身体の芯までじわりと熱が染み渡り、一日中走り回った脚の疲れが、ゆっくりと溶け出していく。湯上がり後、無料のドリンクコーナーで手に取った冷たい乳酸菌飲料のボトル。結露でしっとりと濡れたガラスの冷たさが、火照った手のひらに心地いい。アイスを頬張る子供たちの、満足げな顔。浴衣の裾を少し引きずりながら廊下を歩く彼らの後ろ姿を見て、ふと、この乱雑な幸せをずっと持っていたいと思った。

窓の向こうに広がる、静かな青の境界線

深夜、子供たちが深い眠りに落ちた後、私は一人で窓際に立った。カーテンを開けると、そこには夜の別府湾が静かに横たわっていた。昼間の賑やかさが嘘のように、世界は深い青に包まれている。部屋の中では、子供たちの規則正しい寝息が聞こえ、時折、誰かが寝返りを打つ衣擦れの音がした。外の静寂と、室内の温かな喧騒。その対比が、今の私にはとても愛おしい。海は何も語らず、ただそこにある。けれど、その圧倒的な静けさが、私たちの家族の絆を、より鮮明に浮かび上がらせてくれる気がした。明日になれば、また子供たちは騒ぎ出し、私たちはそれに振り回されるだろう。けれど、この静かな青を眺めている間だけは、すべてが正しい場所にあると感じられた。

明日もきっと、誰かが靴下を片方失くして、みんなで探すことになるだろう。

  • 湯上がりのアイスやドリンクサービスは、子供たちにとって最高の報酬になります。ぜひ、お風呂上がりのルーティンに組み込んでください。
  • 海側の部屋からは、早朝の別府湾に昇る朝日が見えます。子供たちが起きる前の、わずか10分の静寂を味わうのがおすすめです。