← 回到 海濱飯店美松大江亭

湯気に消えた笑い声と、青い海

頬を刺すような冷たい風が、別府駅に降り立った瞬間に私たちを襲った。誰が一番先に「寒い」と口にするかという、くだらない賭けを始めたけれど、結局は全員同時だった。誰か一人が手袋を片方忘れたことに気づくまでの5分間、凍える指先を隠しながら過ごしたあの時間は、この旅で一番緊張した瞬間だったかもしれない。



痺れるような寒さから逃れ、シーサイドホテル美松大江亭のロビーに足を踏み入れた瞬間、空気がふわりと柔らかくほどけた。冬の温泉街特有の、濃厚な硫黄の香りが鼻腔をくすぐり、強張っていた心までゆっくりと溶けていく。私たちは、温かい飲み物のメニューを誰が一番早く読み終えるかで競い合い、湯気の向こう側で小さく笑い合った。


朝食のテーブルに並んだ、真っ白な湯気が立ち上る炊き立てのご飯。地元の魚の絶妙な塩気が、まだ半分眠っている舌に心地よく響き、身体の芯から目覚めていく。隣で友人が「この出汁、反則的に美味しい」と呟きながら、貪欲におかわりを欲しがる様子を見て、私はふっと口角を上げた。


部屋の障子をスッと開けた瞬間、視界いっぱいに別府湾の深い青が飛び込んできた。あまりに広大な水平線に、自分たちがちっぽけな点に思えてくる。誰かが「贅沢すぎて、私たちのレベルに合ってない」と冗談混じりに嘆いたけれど、結局みんな、吸い寄せられるように窓辺から動かなくなった。


屋上露天風呂でのひととき。頭は凍りつくように冷たいのに、身体はとろけるように熱い。この極端な温度差に誰が一番耐えられるかという、謎の「耐寒選手権」が始まり、最後は全員が「もう無理!」と叫んでお湯の中に深く沈み込んだ。笑いすぎて鼻に温泉が入った友人の、情けないけれど愛おしい顔が今でも忘れられない。


ふと訪れる、深い静寂。湾の深い青色が、ゆっくりと濃紺の夜に溶け込んでいく。隣に誰かがいるけれど、あえて言葉を交わす必要はないという心地よさ。孤独とは違う、自立した個々が寄り添っているという感覚が、この凪いだ海のような空間には流れていた。


露天風呂付和室の、裸足で踏む畳の少しひんやりとした質感。廊下を歩くたびに、かすかに聞こえる古い木のきしみ。深夜3時、誰かがトイレに行く足音が聞こえてきて、なんとなく安心した。一人じゃないけれど、干渉しすぎない。この絶妙な距離感が、旅の心地よさを加速させる。


ホテルを出て少し歩いたところで、ふいに見つけた梅の花。まだ蕾が多いけれど、ところどころに淡いピンクが混じり、冬の終わりの空に灯火のように咲いていた。2月の冷たい空気の中で、その香りだけが春を先取りしていた。私たちは、それを写真に撮るよりも、ただじっと、その生命力を見つめていた。


ふかふかの布団に深く潜り込み、外で鳴り響く風の音を聞く。体の中までじんわりと温まったまま、心地よい疲労感に包まれる。次はいつ来ようか、なんて答えの出ない問いを交わしながら、意識がゆっくりと、深い眠りの底へ遠のいていった。

湯上がりの火照った肌に、冷たい夜風が心地いい。

  • 屋上露天風呂で、わざと頭だけ出して寒さに耐えてみて。最高の快感だよ。
  • 朝食の地元の味を堪能して。お腹いっぱいになると、世界が優しく見えるから。