← 回到 Resorpia 別府

ぬるい湯気に、誰かの笑い声が溶けていた

5年後の私たちへ。あの日の別府は、空の色と温泉の湯気が溶け合い、世界の境界線が消えていた。しっとり濡れたアスファルトの匂いと、誰かがこぼしたお菓子の甘い香り。記憶が薄れる前に、この心地よい混沌をここに書き留めておくね。

5年後もきっと、指先に残っている記憶

「誰が一番先に濡れるか」という馬鹿げた賭け
駅に降り立った瞬間、冷たい雨が容赦なく頬を叩いた。濡れたアスファルトから立ち上る独特の土の匂いが鼻をくすぐる。「傘を差すのは最後にした方が勝ち」なんて、大人のすることではない馬鹿げた賭けを始めたよね。ずぶ濡れの肩を寄せ合い、駅のホームに響いた私たちの笑い声は、激しい雨音さえも心地よいBGMに変えていた。首筋を伝う冷たい雫の感覚と、それ以上に可笑しかった絶望感。あの瞬間、私たちはきっと、ただの旅人ではなく、秘密を共有する共犯者のような気分だった。

リゾーピア別府で触れた、温度の書き換え
凍えた体でリゾーピア別府に滑り込み、さらりとした浴衣に袖を通したときの、あの独特の安心感。廊下のひんやりした静寂を通り抜け、一気に濃密な白い湯気に包まれる大浴場へ。硫黄の香りがかすかに漂う空間で、お湯に身を沈めた瞬間、指先の冷たさがじわじわと熱に書き換えられていく感覚に、「ああ、生きてる」と小さく独り言を漏らした。それは単なる入浴ではなく、凍りついていた心までゆっくりと解きほぐされる、静かな化学反応だった。

青いインクが滲むように咲いた紫陽花
雨に打たれ、色が外側に漏れ出しているような紫陽花。しっとりと濡れた花びらが、街の淡い光を反射して宝石のように輝いていた。別府の街を歩きながら、「この青は、深い海に近いか、それとも夜空に近いか」と、正解のない議論を本気で戦わせた。霧がかった視界の中で、鮮やかな青だけが発光するように浮かび上がっていたあの景色。それはまるで、誰かが街全体に青いインクをこぼしたみたいで、私たちの記憶の中でもずっと、心地よく滲み続けている。

深夜3時に分かち合った、コンビニの安っぽい贅沢
誰が買い出しに行くかで揉めた後の、しんと静まり返った部屋。オレンジ色の間接照明が、心地よい眠気を誘う。ベッドの上で、安っぽいバニラアイスの甘さと、ぬるくなった飲み物を分け合った。「明日行く場所なんてどうでもいいから、この静寂をもう少しだけ伸ばしたい」と誰かが呟いた、あの心地よい孤独と連帯感。深夜特有の、少しだけ寂しくて、けれどたまらなく贅沢な空気感。あれこそが、今回の旅における最高の正解だったのかもしれない。

5年後、この記憶の封印を解いたとき

たぶん、どこで何を食べたかという詳細は、湯気に溶ける塩のように消えてしまうだろう。けれど、リゾーピア別府の白い霧の向こう側で、誰かがくだらない冗談を言い、みんなで同時に吹き出したあの「音」だけは、鮮明に残っているはずだ。それは、濡れた和紙に落とした青いインクがゆっくりと広がっていくように、小さな思い出が時間をかけて私たちの日常を彩る大きな模様へと変わっていく。そう思うと、あの日の雨さえも、人生に彩りを添える心地よいノイズだったと感じる。

濡れた浴衣の裾と、湯気に赤く染まった頬。

  • 6月の別府なら、あえてすぐに濡れる靴を履いてみて。その不便さが、後で最高の笑い話になるから。
  • リゾーピア別府の温泉に浸かった後は、15分だけ何も考えずにぼーっとすること。それが一番の贅沢。