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湯船に落ちる水の音が、会話より大きかった夜

宝石の夜景と、静寂の境界線

(友人Aの記憶)
「誰が一番長く湯船に耐えられるか」なんて、大の大人が子供のような賭けを始めたのは、別府温泉 天空湯房 清海荘の屋上にある展望貸切露天風呂に浸かったときだった。視界いっぱいに広がる別府の夜景は、まるで誰かが夜空に宝石をぶちまけたかのように眩しく、正直、勝ち負けなんてどうでもよくなっていた。けれど、負けを認めるのは癪だから、わざと余裕そうな顔をして、11月の鋭い夜風を頬に当てた。皮膚を刺すような冷気と、肩まで浸かったお湯の濃厚な熱さが激しくぶつかり合い、思考が真っ白に塗りつぶされる。その心地よい混乱の中で、隣で必死に耐えている友人の情けない顔を見て、私は堪えきれず吹き出した。

(友人Bの記憶)
正直、Aが競い合い始めたとき、私の意識はもう半分ほど夜空に溶け出していた。お湯に身を委ねた瞬間、身体の重みがすべて消え去り、自分が透明な液体になって宇宙に漂っているような感覚に陥ったからだ。耳に届くのは、トポトポと絶え間なく流れ落ちるお湯の音だけ。視界の端で街の灯りがぼんやりと滲み、それが遠い異国の出来事のように感じられた。Aが何か騒いでいたけれど、その声さえも白い湯気に吸い込まれ、心地よいリズムへと変わっていく。時折吹く風が冷たく頬を撫でるたびに、「今、私はここに生きている」という確信だけが、静かに胸の奥へと降り積もっていった。

湯気の向こう側、異なる味の記憶

(友人Aの記憶)
地獄蒸し料理が運ばれてきたとき、まず鼻をくすぐったのは、大地の呼吸のような濃厚な硫黄の香りだった。もぎたての野菜を口に運ぶと、素材本来の力強い甘みが、熱い温度とともに舌の上にどっしりと居座る。特にカボチャの、ねっとりと濃厚な黄金色の甘さは、今まで食べてきたものとは次元が違う衝撃だった。最後の一口を誰が食べるかで、またくだらない言い争いが始まったけれど、口いっぱいに広がる熱い幸福感に、私たちはただただ圧倒されていた。お腹を満たすことよりも、この「熱」という共通の体験を分かち合っている感覚に、言いようのない満足感を覚えていた。

(友人Bの記憶)
私は味よりも、その場の「音」と「光」を鮮明に覚えている。箸が器に触れる小さなカチャカチャという音。誰かがふふっと笑い、温かいお茶をすする音。そして、窓の外からかすかに聞こえてくる、別府の街が静かに呼吸しているような喧騒。立ち上る真っ白な湯気が視界を優しく染め、向かいに座る友人の顔が時折ぼやけて見えた。その不完全な視界が、かえって親密さを増して心地よかった。味は確かに格別だったけれど、それ以上に、温かな温度に包まれた空間で、気を使わずに笑い合える時間の密度が、何よりも贅沢に感じられた。美味しいものを食べているとき、人は誰しも少しだけ優しくなれる。

私たちが唯一同意したこと

チェックアウトの朝、半露天風呂付和洋室の抗菌畳の上に寝転がったとき、私たちは同時に「もう一回だけ、ここで寝たい」と呟いた。ふかふかのベッドの抱擁感と、畳のひんやりとした清潔感。その絶妙なコントラストが、旅の疲れを静かに、でも確実に解きほぐしてくれていた。誰が一番遅くまで起きていたか、誰が一番たくさん食べたか。そんな瑣末なことはもうどうでもよくて、ただ空間に漂う檜の香りと、深い静寂だけが正解だった。私たちは何も言わずに天井を見つめていた。その沈黙こそが、どんな会話よりも深く、私たちを繋いでいた気がする。

湯気の中に消えていった笑い声が、まだどこかで心地よく響いている。

  • べっぷ地獄めぐりを早朝に済ませ、早めにチェックインして屋上の湯に浸かること
  • 11月の冷たい風をあえて肌で感じながら、貸切温泉で温度差の快感を楽しむこと