今日、耳に届いた五つの音
1. 「お湯はどこから来るの?」という、次男の高く澄んだ声。露天風呂から立ち上る白い湯気が、四月のまだ冷たい空気にゆっくりと溶けていく。指先で触れたお湯は驚くほど滑らかで、まるで薄い絹の膜が肌を包み込むような感触だった。親として正解をすぐに提示できず、二人でぼんやりと湯煙の向こう側を眺めていたあの時間は、どんな知識よりもずっと価値があったと思う。
2. 離れ客室の縁側に深く腰を下ろしたとき、夫がふっと漏らした小さく深い溜息。使い込まれた木のざらりとした質感が、ズボンの生地越しに心地よく伝わってくる。目の前に広がる由布岳の稜線が、朝の光の中で淡い青色に染まり、ゆっくりと輪郭を現していた。誰にも邪魔されない静寂は、すぐに子供たちの賑やかな足音で塗り替えられる。その切り替わりこそが、家族旅行という名の心地よいリズムなのだ。
3. 桜の花びらが、鼻の頭に「ぽつん」と乗った瞬間の、かすかな音。それを発見した長女が、くすくすと笑いながら指でつついていた。風が通り抜けるたびに、広大な庭園のあちこちで花びらが舞い、まるで目に見えない誰かが静かに拍手を送っているみたいだった。構図にこだわった完璧な写真なんて一枚も撮れなかったけれど、あの子の瞳に映った淡いピンク色の世界は、きっと何よりも鮮やかで、記憶に深く刻まれたはずだ。
4. 露天風呂付和洋室の湯船で、家族四人が浸かったときの賑やかな水しぶきの音。石の壁に跳ね返る水の音が、狭い空間に心地よく反響し、まるで小さなコンサートホールにいるような錯覚に陥る。お互いの顔に水がかかって笑い転げ、上がるタイミングを合わせてバスタオルを準備するのをすっかり忘れて。そんな乱雑で、予定調和ではない時間が、実はこの旅で一番贅沢な時間の使い方だったのかもしれない。
5. 子供たちが深い眠りに落ちた後、静まり返った部屋に届く遠くの風のささやき。由布院 梅園 GARDEN RESORTの広い庭を通り抜ける風は、湿った土と、かすかに春の花の匂いを運んできた。布団の心地よい重みと、隣で眠る家族の規則正しい呼吸音。何かを付け足さなきゃいけないと思っていた毎日が、ここではただそこにいるだけで十分すぎるほど満たされている。そんな充足感に包まれて、私はゆっくりと目を閉じた。
明日もまた、誰かの笑い声で目が覚めるんだろうな。
- 離れの客室では、あえて時計を見ない時間を。子供たちが庭の虫や花に夢中になる速度に、大人が合わせてみるのが正解。
- 露天風呂の温度に慣れるまで、ゆっくりと時間をかけて。肌に馴染むお湯の感覚を、言葉にせず共有する贅沢を味わってほしい。