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湯気の向こうで、誰かが小さく笑った

湯気の向こうで、誰かが小さく笑った

冷たいドアノブに触れた瞬間、指先から冬の鋭い冷気が流れ込んできた。離れ客室へと続く石畳は、靴底を通してざらりとした冬の土の感触を伝えてくる。不揃いな地面を一歩ずつ踏みしめるたび、喧騒に満ちた外の世界から切り離され、家族だけの静かな聖域へと深く潜り込んでいく感覚に包まれた。由布院 梅園 GARDEN RESORTの空気には、濡れた土と冬の木々の香りが混じり、どこか懐かしい記憶を呼び覚ます。お風呂で泡の髭を作っては、くしゃみ一つで消えてしまう。そんな、誰にも報告しなくていい、どうでもいい瞬間を積み重ねることこそが、この旅の本当の目的だったのかもしれない。

冬の静寂に溶け込む、家族の記憶の音色

1. 縁側を駆け抜ける、小さな裸足の「パタパタ」という軽やかな音。次男が「見て!葉っぱが踊ってるよ!」と歓声を上げ、冷たい木目の上に飛び跳ねている。静まり返った冬の庭に、制御不能な生命力がリズムを刻んでいて、その無邪気さが凍てついた空気を柔らかく解かしていく。

2. 露天風呂の熱い湯に身を沈めたとき、父親が漏らした深い「ふぅ」という溜息。美人の湯と称される滑らかなお湯が肌を包み込み、張り詰めていた肩の力がゆっくりと抜けていく。一年の責任という重いコートを脱ぎ捨てて、ただのひとりの人間に戻った瞬間の、安堵に満ちた音だった。

3. 庭園の木々を揺らす、低く乾いた風の「サワサワ」という囁き。由布岳の裾野に広がるこの場所では、子供たちが誰の枕を奪い合うかという小さな争いさえも、雄大な自然の呼吸に飲み込まれていく。自分たちがこの世界においていかに小さく、だからこそ自由であるかを、風の響きが教えてくれた。

4. 夜、ふかふかの布団の中で聞こえてきた長女の「ねえ、木も寝るのかな」という小さな囁き。暗い部屋の中で、温かな小さな手が私の袖をぎゅっと掴んでいる。正解のない問いかけに、答えを出す必要なんてない。ただ互いの体温を共有しているだけで、心まで満たされていくのがわかった。

5. 朝六時、静まり返ったダイニングに響いた湯呑みの「チリン」という澄んだ音。子供たちが目を覚ます前の、夫婦だけに許された贅沢な空白の時間。立ち上る湯気の向こう側で視線が合い、言葉にしなくても「また明日もここにいよう」と同意したような、静かで確かな合図だった。

湯気の向こうに、まだ見ぬ明日が柔らかく溶けていた。

  • 冬の朝の庭園は空気が澄み渡っているので、早起きして、由布岳をただ眺める静寂の時間を5分だけ作ってみてほしい。
  • 離れの客室では、あえて時計を気にせず、子供たちが飽きるまで一緒に畳の上で転がってみるのが正解だと思う。