1月の空気は、肺の奥まで凍りつかせるほど鋭い。駅を出た瞬間、誰が一番先に震え出すかというくだらない賭けをしたが、結局は全員同時に肩をすくめていた。高鉄中彰309民宿へと向かう道すがら、スーツケースがアスファルトを叩く乾いた音が、冬の静寂に心地よいリズムを刻んでいた。
舌の上でとろける、濃厚な脂の甘み。彰南控肉飯から立ち上る真っ白な湯気が、冷え切った鼻先をふわりと包み込む。隣で「肉が全然足りない!」と誰かが大げさに嘆いているが、その不満さえも冬の昼下がりの心地よいBGMに聞こえた。炊き立てのご飯の熱が、指先から心までじわりと溶かしていく。
「え、嘘でしょ?歯ブラシ持ってないの?」という絶叫が、静かな部屋に響き渡った。アメニティがないというルールを、誰か一人が見事に読み飛ばしていたのだ。エコへの貢献という高尚な理由を後付けして、コンビニへ全力疾走する背中をみんなで笑ったけれど、実のところ、私も予備を忘れていたことに気づき、密かに冷や汗をかいていた。
夜市まで歩く15分間。それは私たちにとって、胃袋の限界を試す「極秘作戦会議」だった。どの屋台が正解か、誰が一番多く詰め込めるか。寒さで林檎のように赤くなった顔を見合わせながら、どうでもいいことで言い争う時間は、記憶の底に深く、鮮やかに刻まれていく。
ベッドに潜り込んだとき、掛け布団のずっしりとした重みが、まるで誰かに抱きしめられているような安心感となって身体に馴染む。外の喧騒が遠い世界の出来事のように消え、部屋の中には心地よい静寂だけが満ちていた。明日、何時に起きるか。そんな単純な問いに答えが出ないまま、意識がゆっくりと夜の闇に溶けていった。
裸足で踏みしめたタイルの、芯まで冷たい温度。高鉄中彰309民宿の洗面台にあるタオルは、程よく使い込まれていて、肌に触れる感触が驚くほど柔らかい。部屋の隅からドアまでの歩数を数えてみたけれど、そのわずかな距離こそが、今の私にとってちょうどいい自由の広さだったのかもしれない。
八卦山のランタンが、夜空に極彩色の花を散らしていた。吐き出す息が白く濁り、隣を歩く友人の肩がふっと触れる。迷路のような天空歩道を彷徨いながら、「こっちじゃない」「いや、あっちだ」と何度も言い合い、結局どこに辿り着いたのかも分からないまま、ただ光の海に深く浸っていた。
最後に飲んだ木瓜牛乳の、喉に残る少しだけ苦い後味。計画していた場所の半分も回れなかったけれど、それでいいという気がした。予定を外れた路地裏で出会った名もなき景色の方が、ずっと鮮やかに、ずっと優しく見えたから。
冬の夜、誰かが笑った声だけが、ずっと耳に残っている。
- 八卦山の大仏まで歩いて、夜のランタンを眺めるのは絶対おすすめ
- 宿の周りにある朝ごはん屋さんは、迷ったら全部試してみて