「本当にここ、正解だったのかな」
湿り気を帯びた夜風が、君の髪をわずかに揺らした。君は不安げに、小さく呟いた。
「多分ね」
僕が曖昧に答えると、君は少しだけ眉をひそめて僕を見た。その瞳には、期待と諦めが混ざり合っている。
「『多分』って、旅の答えにしては一番頼りないよね」
「でも、正解なんて最初からなかった気がするし」
僕たちは、どちらが正しいのかを決めないまま、重いドアを開けて中に入った。
呼吸が混ざり合うまでの、七歩の距離
ロビーに足を踏み入れた瞬間、冷房の冷気が濡れた肌にまとわりつき、心地よい緊張感に変わった。承攜行旅の空気は、外の喧騒を丁寧に濾過した後のように静かだ。割り当てられた高層階の部屋に入り、靴を脱ぐ。床のタイルのひんやりとした温度が、足の裏からゆっくりと体温を奪っていく。その感覚が、不思議と心地よかった。
ベッドの端から窓まで、大股で歩いてちょうど七歩。その距離は、誰にも邪魔されずに深い溜息をつき、それが壁にぶつからずに消えていくのに十分な広さだった。卒業という区切りを迎え、次の目的地が見えない僕たちにとって、この「余白」こそが必要だったのかもしれない。バスルームの眩いほどの白い光に照らされ、質の良いアメニティの香りに包まれていると、張り詰めていた神経がゆっくりとほどけていく。少し古びた地毯の質感や、時代を感じさせるカーテンの重なりさえも、この場所が積み重ねてきた時間の厚みとして、僕たちの不安を優しく包み込んでくれるようだった。
外に出れば、6月の彰化は容赦のない湿度に包まれていた。どこからか漂ってくる蓮の花の、少し泥臭いけれど甘い香り。僕たちは地元で評判のパパイヤミルクを買いに歩いた。手にしたグラスは指先が痺れるほど冷たく、濃厚な甘さが火照った体にゆっくりと染み渡っていく。グラスの表面に結露した小さな水滴が、重力に従ってゆっくりと筋を作っていた。僕は指先で、その透明な雫をなぞった。それは、もどかしい僕たちの関係性のようだった。急いでも、無理に動かしても、水滴は自分のタイミングでしか落ちない。ただ、そこに在ることを受け入れるしかない。
一本のストローを二人で分け合おうとして、不自然に前屈みになり、鼻先が触れそうになった。君がふっと吹き出し、僕もつられて笑った。完璧なロマンスなんてどこにもないけれど、この不格好な瞬間こそが、本当の意味で僕たちを繋いでいる気がする。僕たちは、お互いの正解を押し付け合うのをやめた。ただ、承攜行旅の広い部屋で、同じ温度の空気を吸い、同じ冷たい飲み物を飲み、不確かな明日を待つ。君はここにいていい。僕もここにいていい。それだけで、十分な気がした。
オレンジ色の夕立が、窓の外の景色を淡く塗り替えていく。
- 予定を全部捨てて、パパイヤミルクを飲みながら、ただ雨が止むのを待ってみない?
- 広いベッドの端と端に座って、あえて何も話さない時間を、一緒に楽しんでほしい。