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湿った浴衣と、誰かの笑い声

8月の松山。空気はぬるい濡れたタオルのように肌にまとわりつき、逃げ場がない。駅からのわずか5分、誰が一番に「暑い」と叫ぶかというくだらない賭けをしたが、結局は全員同時に絶叫していた。道後プリンスホテルに足を踏み入れた瞬間、ロビーの冷気が鋭い刃のように皮膚を刺し、肺の奥まで冷やしてくれた。その心地よい衝撃に、私たちはようやく「旅が始まった」のだと、言葉を交わさずとも悟った。



氷がカランと鳴る、冷えたみかんジュース。グラスの表面には大粒の結露がつき、手のひらがじっとりと濡れる。口に含んだ瞬間、鮮やかなオレンジ色の酸味と甘みが弾け、喉を突き抜ける冷たさが体温を数度だけ奪い去った。鼻に抜ける濃厚な柑橘の香りが、夏の倦怠感を心地よく塗り替えていく。


「その浴衣の着方、どこの国のスタイル?」誰かの意地悪な一言から、15分間の全力な「着こなし批評会」が始まった。帯の結び目は不格好に歪み、歩くたびに少しずつずれていく。パリッとした綿の感触が、私たちの不器用さを際立たせていた。結局、正解に辿り着いた頃には出発時間。不完全なまま街へ踏み出す、あの妙な高揚感。


金の讃岐うどんショー。目の前で繰り広げられるあまりに突き抜けた光景に、私たちはただ呆然と口を開けていた。笑うべきか、感心すべきか。タイミングを完全に逃した私たちは、後で「あれは一体何だったんだ」と小声で囁き合った。正解のない問いに、三人で深く頷き合う。それだけで十分な、秘密の共有だった。


花火大会の喧騒が遠のき、道後プリンスホテルの和モダンツインのベッドに深く沈み込む。シーツのパリッとした冷たさが、火照った背中を優しく包み込み、心地よい疲労感が波のように押し寄せた。窓の外では夜の静寂が降り積もっている。ゆっくりと目を閉じると、瞼の裏にはまだ、夜空に咲いた大輪の火花が鮮やかに残っていた。


深夜3時。館内湯めぐりの帰り道、静まり返った廊下を歩くと、自分の足音が妙に大きく、孤独に響く。自動販売機までの距離が、まるで果てしない旅路のように感じられた。裸足で踏みしめたタイルのひんやりとした温度だけが、意識を現実へと繋ぎ止めていた。静寂という名の、心地よい重圧に身を任せる時間。


盆踊りの輪に飛び込んだとき、誰かがリズムを完全に読み違え、隣の人と肩が激しくぶつかった。一瞬、凍りつくような気まずい空気が流れたが、次の瞬間には全員で爆笑していた。私たちは完璧に「場違い」で、だからこそ最高に自由だった。予定調和を壊した瞬間にだけ訪れる、解放感という名の快楽。


湿った浴衣を脱ぎ捨て、シャワーを浴びた後の静謐な時間。誰かが小さく、深いあくびをした。特別な出来事はもう何もなかったが、ただそこに一緒にいるという事実が、厚手のタオルのように私たちを温かく包んでいた。欠けている部分があるからこそ、パズルのようにうまく噛み合う。そんな確信に似た心地よさ。

窓の外では、夏の夜風が誰にも聞こえない音で鳴り続けていた。

  • みかんボールの湯に浸かって、心ゆくまで全力で脱力してほしい。
  • 貸切露天風呂で、誰が一番長く耐えられるかくだらない賭けをしてみて。